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Freedomwing〜神モノガタリ〜
遺言(3)
 ライラの隣りに座った青年は主人に片手を上げ、
「やあ、マスター。明日立つことにしたよ。それで連れが欲しいんだけど…。」
ライラは青年の横顔に妙な既視感を感じ首を捻った。
 初めて会ったはずなのに初めて会った気がしない。
「…って、急に言ってもいないよねぇ。」
「明日立つのかい。寂しくなるね…。旅の連れか、そこの子はどうかな?今日旅を始めたばかりだそうだが、剣の腕前はかなりのもんらしいぞ。足手まといにはならないはず。」
主人が、ホットミルクをチビチビと飲んでいるライラに視線をやり、青年に紹介する。
「へぇ…。君、初心者なんだ。名前は?」
ライラに顔を向ける青年。鼻眼鏡が知的な印象を与える。
 学者…なのだろうか。そのわりにはなかなか目つきが鋭い。
「あ…ごめん。先に名乗るのが礼儀だよね。僕はキラ・ヨーハル。君は?」
ジッと黙り込んだままのライラを見てどう思ったのか、自分の名前を名乗ると、にっこりと微笑んだ。黒い瞳がキュッと細められる。
 整った顔立ち、引き締まった細身の体格。スラッとしていて、美男子という形容がピッタリくる青年。ライラは素直にかっこいいと思った。
「え…あ、俺、ライラ。ライラ・ローマン。」
「ふーん…ライラ君、か。ローマンってことはセルシールさんの子だね。これは心強いなあ。…僕が足手まといになってしまいそうだよ。」
キラは明るく笑うと、
「じゃあ、マスター。今まで色々ありがとう。また来ることがあったら寄るよ。」
「ああ、気をつけてな!」
キラに促され、ライラは酒場から出た。
 外はすっかり暗くなっていて、街の賑やかさが昼から夜へと変わっている。
「ライラ君、行こうか。」
「え…っと…どこに、ですか?」
キラはクスリと笑うと、
「敬語はいいよ。これから一緒に旅をするのに、窮屈じゃないか。」
「…じゃあ、キラも俺のこと『ライラ』って呼んでよ?あんまり君付けで呼ばれたくないんだ。」
「そう?わかった。これから行くところは宿屋さ。ところで、ライラは何で旅立ったの?仕事…にしては軽装過ぎるし。」
キラは不思議そうにライラの服装を眺め、首を傾げた。
「…あはは、まあ…父さんの…敵討ちかなあ…。」
連れ去られた姫を助け出す為、なんて口が裂けてもいえない。知られてしまえば大変なことになるからだ。だから、ライラは曖昧に答えた。それに父の敵討ちも嘘ではない。果たせるのなら果たしたい目的だ。
「へー。お父上の…。」
キラは感心したように呟くと、
「僕も敵討ちなんだ。滅ぼされた故郷の…ね。」
「え?」
「僕の故郷は4年前に突然滅ぼされた。…炎の魔神と…剣神に。だから、炎の魔神を倒し、剣神を倒すって決めたんだ。」
キラが小さく溜め息をついた。
「…剣神…。」
「ライラは知らないのかい?語り継がれている、あの伝説を。」
ライラはコクリと頷いた。今日知らされたばかりの事実だ。出来るだけたくさん情報を得ておきたい。
「いいかい、この世界には100年毎にひとり『剣神』と呼ばれる現人神が生まれる。かつて世界を支配しようとして封じられた邪な心の封印を守るため、そして復活した際には再び封印し直すためにね。それが本来の剣神…創造神が人類に与えた光だ。」
キラは深呼吸すると、言葉を続けた。
「だが、封じられた邪な心もそれに対抗するため、人類に剣神を託した。それが邪な心の封印を解き、世界を破滅に導く闇だ。100年毎にそのどちらかが生まれる。決してふたり同時に現れることはない。」
「じゃあ…俺はどうなるんだ?キラの故郷を壊滅させたのが剣神なら…俺は何なんだ?」
ライラは首を振った。キラの話が本当ならば、剣神がふたりいるはずがない。だが、ライラは剣神だ。…まだ確証はないが。
「え?」
今度はキラが訝しむ番だった。
 ライラは、父から知らされたばかりの事実を簡単に伝える。
「まさか、聖魔紀…?」
「聖魔紀って?」
「あ…いや…。剣神は普通100年にひとりしか現れないらしいんだが、聖魔紀という、ふたり同時に現れる時代があるそうなんだ。…詳しいことは謎に包まれたままで、聖魔紀が訪れると何が起こるのかとかは不明なんだけどね。」
ライラはふーんと呟くと、
「光…か…。」
光の剣神は、邪な心の封印を守るために生まれ落ちた存在。ライラもきっとその使命を持っているのだろう。
 剣神のことを聞いて、実感が湧いたかというとそうでもない。だが、最終的に成さねばならないことがわかり、ライラは少し気が楽になった。
「でもさ、ライラが聖魔紀の剣神なら…闇を倒せるかもしれないってことだよね。剣神は剣神しか倒せないらしいから…。」
「…うん。」
ライラは曖昧に笑うしかなかった。


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