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Freedomwing〜神モノガタリ〜
遺言(1)
 故郷のトワールを出発したライラ。
 振り返ることなく、街道を歩む。
 振り返れば、千々に思いが乱れて、決意が揺るぎそうだったから。
 自分をここまで育ててくれた母親に対する感謝の想い。目標であり、越えなければならない亡き父に対する憧れと尊敬の念。その他様々な思いを抱いて、ライラは街道の土を踏みしめて歩んだ。

 この世界は自治権を持つ行政国に分かれ、さらにその行政国を纏める統一国が存在する。
 その統一国こそ、ライラの故郷・トワールを首都とする国、ウィスダムだ。
 ウィスダムは君主制の国だが、権限は議会の方が強い。王家は国の元首であり象徴だ。統一国として他の国をまとめるのは王家、国として民をまとめるのは議会と区別されている。
 また、ウィスダムは主要国家機関のほとんどを首都におかず、古くからその分野に特化した街に置いている。例えば、これから向かう街・エレーナは商業が盛んであるため、経済金融産業省があるといった具合だ。
 ライラは空を見上げた。白い雲がゆっくりと流れていく。
「のどか…だなぁ…。」
何もかもがゆったりと流れる。焦っているから、周りの時間が遅く感じるだけなのかもしれない。
 ライラは小さく笑い、深呼吸した。
 エレーナまであともう少し。着いたら酒場に行って休憩しよう。
 その選択が運命を加速させることになろうとは、神以外には知る由もなかった…。

 夕日の光が石畳の美しい街並みをオレンジに染め上げる。
「やっと着いたあ…。」
国家戦士−−−剣士として戦場に赴く際に、この街はよく通るが、馬に乗っているため、それほど遠いとは感じていなかった。だが、今回初めて徒歩で行ってみて、その距離を実感する。
「それにしても…いつ来ても賑やかだなあ、この街。」
威勢のいい商人の声、客の注文する声、井戸端会議をしている女性達、駆け回る子供…。
 ライラは剣が他人にぶつからないように注意を払いながら、酒場に向かう。
 酒場は華々しい大通りの一角にこぢんまりと佇んでいた。看板に創業年が書かれている。逆算すると約200年ほど前からここで経営しているらしい。だが、古臭い感じはなく、どこか懐かしい雰囲気を漂わせている。
 ライラは初めての酒場に緊張しながら扉を押した。
 カラコロン、と可愛らしい音がなり、酒場の喧騒と独特の香りがライラを包み込む。
「いらっしゃい!」
カウンターの中でグラスを磨いていた主人が、ベルの音に顔をあげ、戸惑っているライラに笑顔でカウンター席を示す。
 ライラは示されたカウンター席に座り、一息ついた。
「お客さんは、この街…初めてかい?」
「通るとき以外なら初めてです。」
ライラは出された水を少し口に含める。
「へぇ…。その服装から見て…旅は初めてみたいだね。どこから来たんだい?」
「トワールから来ました。今日始めたばかりなんで…。」
「トワールから!またなんで君みたいな小さい子が旅を…?」
ライラはその言葉に眉を動かした。
 必死で気持ちを落ち着かせ、笑顔を無理矢理浮かべて、
「まあ、色々ありまして…。」
ライラは身長が小さいことをかなり気にしていて、そのことに触れられると過剰に反応する。
 これが、知り合いならば、間違いなくパンチを喰らわされていただろう。
「大変なんだねぇ…。」
「はあ…。」
それっきり会話は途切れた。ライラは黙々と水を飲み、暮れ行く日を見つめていた。
 カラコロン、と来客を告げるベルが喧騒を掻き消すように鳴り響く。
「いらっしゃい!」
主人が顔を上げた。ライラも新しい客に目をやる。
 長旅の途中なのか、ヨレヨレのマントを纏い、フードを目深に被って目元を隠している男性が、ライラの隣りに座った。
「お客さん、どこから来たんだい?」
「スピリトラルからだ。」
主人が差し出した水を受け取りながら、嗄れた声で返答する男性。
「スピリトラルとは…また遠いところから…。」
ライラはちびりちびりと水を飲みながら、黙っていた。
「そういえば君は、剣士…かな?」
「え、あ…はい。」
ライラは急に話を振られたため驚き、危うく水をこぼしそうになる。
「ん…。」
隣りの男性がライラを見、目を見開いた。
「セルシールさん…!?」
「え?父がどうかしましたか?」
「君が、セルシールさんの…。」
男性はライラの全身をくまなく見回したあと、
「…ライラ君か。」
「はい。でも、何故俺…僕の名前を?」
ライラは首を傾げた。父・セルシールを知らない人はそうそういないが、ライラの名を知らない人はたくさんいる。−−−ローマンと名乗れば話は別だが。
「…10年前にセルシールさんから聞いたんだ。」
そういうなり、男性は懐の巾着袋からシワシワの紙切れを取り出し、ライラに渡す。
「セルシールさんからの預かり物だ。君に渡してくれと頼まれていた。」

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