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Freedomwing〜神モノガタリ〜
旅立ち
 「えっ!そんな…。姫が…連れ去られたなんて…。」
少年の驚いた声が家中に響き渡った。戸惑いを隠せないような表情で、玄関口に立つ、二十歳そこそこの青年を見つめる少年。
 青年は首を縦に振り、うつむき加減で、
「はい…。あっという間でしたので、何も出来ませんでした…。」
低い、苦しそうな声が、玄関口に重く響く。
「そうか…。わかった。知らせてくれてありがとう。」
顔を曇らせて俯く青年の肩を叩いて、
「大丈夫、ロビンの責任じゃない。」
「しかし、お側に控えておきながら、姫を助けられず…。本当にすみませんでした。」
青年が頭を下げる。少年はしばし黙っていたが、やがてにっこりと笑い、口を開いた。
「姫なら俺が助けに行く。」
「あなたが!?無茶ですよ!!」
ロビンは目を見開き、横に首を振った。だが、少年は笑ったまま、強い口調で言葉を紡ぐ。
「無茶かもしれない。でも、彼女を助けられるのは俺しかいないだろ?プリンセスガードの隊長だしさ。それに…、何だか、行かなきゃならないような気がするんだ。理由はわからないけど…。」
少年の言葉にロビンは小さく息を吐き、
「わかりました。必ず、姫を連れて戻ってきて下さい。」
任せておけとでもいうように、少年は強く頷いた。

 「さっきのことは本当なの…?エリーザ姫が連れ去られたって…。」
母親が旅立ちの準備をしている息子の背中を心配そうに見つめる。
「ああ。だから、今から助けに行くんだ。」
「何もあなたでなくても…。」
少年は振り返り、今にも泣き出しそうな母親を見つめ、
「母さん…俺、もう決めたんだ。」
どんなに反対されようとも、助けに行くと決めた。
「ライラ…。」
母親が目を伏せる。
 ライラ・ローマン…それが少年の名前だ。楽天的な性格だが、行動力があり、みんなからは頼りにされていた。
 ライラは父の形見の剣を鞘に収めた後、赤い布を額に巻き、後ろで縛る。長く垂らした余った布が、窓から入る風にヒラヒラ揺られた。
「母さん…。俺、行くね。」
青いパーカーに黒のジーンズという出で立ちで、左上腕に紺色のリボンを結んでいた。腰に携えた剣が、この旅に対する覚悟を示しているようだ。
 ライラは努めて明るく振る舞った。
「あなたも行ってしまうのね…。今のライラ、あの日のお父さんにそっくりだわ…。」
母親は涙ぐみながら、息子を掻き抱く。
 ライラは母親に抱きしめられながら、目を伏せた。
 父は、ライラが幼かった頃に戦死したらしい。その最期はとても勇ましかったという。そんな父に憧れ、ライラも戦いに身を委ねた。
 英雄と呼ばれる父の息子であることは誇りだった。生き写しだと言われることも嬉しかった。だが、それは同時に、父に対する強い劣等感をライラに抱かせた。
 父と比べられ、父と重ね合わされて。ライラは誰からもライラとして見らていなかった。
「母さん。俺は俺だよ。心配しないで…ちゃんと帰るから。」
ライラは母親から離れると、安心させるように明るく笑って、玄関口へ歩き、扉を開けてからもう一度振り返った。
「行ってきます!」
ちゃんと帰る、そういう気持ちを込めて。
 母親は涙をこらえて息子を見送った。今は亡き夫と重なるその背中を見つめて。
「ああ…セルシール…。どうかあの子を、守って…!」
母の祈りが、静かに響いた。


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あきゅろす。
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