[携帯モード] [URL送信]

Freedomwing〜神モノガタリ〜
認知(4)
 ライラは黙々と歩いていた。
 アズールも何も言わず、気絶したシエルを背負って黙って隣りを歩いている。
 ずっとその調子だったが、唐突にアズールが、
「なあ、ライラ。」
「何?」
「…あの男のこと、キラ達に話すか?」
ライラは考え込んだ。
 シエルのことは話さねばならないだろう。だが、キラ達にも告げていない、本当の旅の目的に触れる発言については、話さなくてもいいと思うのだ。というより、話したくない。
「シエルのことだけ話そう。」
「…『彼女』のことは?」
「俺の問題だから、いい。」
やっと、掴んだ。連れ去られた姫に関する手がかりを。
 あの男は姫を連れ去った犯人か、その犯人を知っている重要人物。
 キラ達には悪いと思うが、こればっかりは自分の問題なのだ。
 アズールもその気持ちを察してくれたのだろう。何も言わず、ただ頷くだけだった。

 酒場に戻ったライラ達は、待っていた二人に案の定驚かれた。
「一体、どうしたんだ!?」
「シエル…。」
「大丈夫だ、ソーサ!シエルは死んでねえ!」
マスターが慌てて、二階に案内してくれた。
 酒場には大抵、泥酔した酔っ払いを世話するためにベッドが設けてある。それを使うようにとマスターは言い残し、一階に降りて行った。
「アズールも怪我しているし…一体何があったんだ?」
シエルの様子を見ながら、キラが首を傾げる。
「話は後。とりあえず、シエルに呪いがかかってないか調べてくれないか?もしかかってるなら、解除してほしい。」
ライラが頼むと、キラとソーサは頷いて、
「何の呪いがかかってるかわからないから…全ての呪いに効く反対呪文を使おうか。」
「ええ。」
魔法陣をチョークで描き、手際よく準備を整え、いざ詠唱を始めようとした、その時。
「うー…。」
シエルが目を覚まし、むっくりと起きたのだ。
「シエル!」
「呪いは…?」
口々に声をかけるライラ達に、シエルは笑顔で、
「僕には効かないから平気。」
「だがよ…。」
なおも心配するアズール。ライラも一部始終を見ていたわけではないが、心配であった。
「あの男の纏う闇に影響されただけだから…。」
「闇?」
怪訝な顔をしたのはキラとソーサだ。
 アズールとライラは顔を見合わせ、シエルはポカンとしていた。

 「なるほど。そんなことがあったのか…。」
宿屋の一室でのことだった。
 あの後、事情を知らぬ二人に散々追及され、マスターや酒場の従業員からはシエルのことで心配されたが、何とかごまかして酒場を出、宿屋にチェックインし、事のいきさつを二人に話したのであった。
 ただし、姫に関することは伏せて、だ。
「何で精霊使なんか狙うんだろな?そりゃ、珍しいものなんだろうけど…。」
アズールが壁にもたれて天井を見上げた。
「…シエル、何か思い出せたかい?」
キラが向かいに座るシエルを見つめた。
 他の三人の視線も集中し、シエルは困ったような顔をしていたが、
「精霊使は…神に、より近い存在。精霊使は己の使命を遂行するため、神の末席に名を連ねる精霊の力を行使する。…それは思い出せた。」
キラは頷くと、シエルの話を止め、
「精霊の力を直接使える者は精霊使だけなんだ。これは僕の予測だが、その男はきっと、精霊の力を直接行使できるという能力に目をつけたんだと思う。」
ライラはキラの意見を聞きながら、首を傾げた。
 違う。
 勘がそう告げている。自分の勘はそれほど鋭いわけではないのだが、何故かそう思った。
 あの男はそんな理由でシエルを襲ったんじゃない。
「精霊の力を行使できる能力…か。」
「裏のルートからの情報なんだが、最近、特殊な力を持つ人間を襲う者達がいるそうだ。その男もそれなのかもしれない。」
「ふうん…。」
アズールは肩を竦め、チラリとライラを盗み見る。
「ま…考えてても埒あかねえし…。何とかなるだろ。」
「…そうだね。」
アズールなりに、ライラのことを考えてくれていたのか、話題を打ち切るように、話をまとめた。
「ライラ…、どうしたの?」
眉間に皺を寄せ、ずっと黙り込んでいるライラのことを心配したのか、ソーサが声をかけた。
「あ…いや。」
「そう…?」
歯切れの悪い返事にソーサは首を傾げたが、
「あまり背負い込まないでね。」
「うん。」
ライラは少しずつ沈んでいく西日に照らされて、溜め息をついた。
 深まる謎。やっと見出した手がかり。
 旅はまだ長い−−−。

[*前へ]

5/4ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!