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Freedomwing〜神モノガタリ〜
認知(3)
 シエルが抜けてから、一時間ぐらい経過した。
 ライラ達はシエルの帰りを待つ間、各々好きなことをしていた。
 キラとソーサは束ねられた古文書の写しを読みながら議論を交わしているし、アズールはシエル同様外に出ている。本人曰わく、気分が悪くなった、とのことだ。
 ライラはジュースを飲みながら、自分の世界に閉じこもって物思いに耽っていた。
 色々ありすぎて、正直疲れていた。精神的にも肉体的にも。
 夢のことも気がかりだ。何か、重要なことを聞いた気がする。けれども、思い出せない。
「俺のバカ…。」
焦りと苛立ちが募る。
「ライラ、どうしたの?」
ソーサが心配そうに覗き込んだ。
「あ、ううん…。少し外に行くね。気分転換しなくちゃ。」
「そう、気をつけてね。」
ライラは立ち上がり、ふたりに外出の旨を伝えると、酒場の扉を開けて外へ出た。
 春独特の柔らかな日差しがたっぷりと地上に降り注ぎ、草木や生き物が生き生きと活動している。
 伸びをして、街の大通りをとりあえず歩き出した。
 走り回る子供達。井戸端会議をしている主婦達や客を呼び込む店員。
 街の喧騒はどこも一緒なのだと改めて思わされる。
 ライラは小さく溜め息を吐き、流れ行く雲を見上げた。

 街の喧騒から少し離れたところで、アズールはシエルに出会った。
「よう、シエル。」
「あ…アズール。」
何とはなしに、アズールは彼の隣に並んだ。
 沈黙が二人の間に漂う。
「−−−俺たち精霊使は、神により近い存在…。」
「へ?」
「あ、ごめん。精霊使について思い出してて…。アズール達…闇を追ってるんだろう?」
シエルが振り向いた。
 アズールはしばし呆けていたが、
「あ、ああ…まあな…。キラが…追ってるんだ。闇の剣神を。」
「じゃあ、アズール達は…?」
「俺は手伝い。明確な理由はないさ。ライラもキラの手伝いだったかな…?」
そう…、とだけ呟いたシエルは伸びをした。
「…ライラは光の剣神なんだよね。」
「らしいな。確証はまだねぇけど…言動とか戦術とか見てると剣神じゃないかって思えてくる。」
アズールの言葉に、彼はにこりと笑うと、
「よく見てるんだね、アズール。」
「それほどでもねぇよ。」
会話が途切れた。木々のざわめきが静寂を掻き消す。
「…ライラは…強いのかな…。」
「あいつは強いさ。」
唐突なセリフにケラケラ笑い、アズールは思い詰めたような顔をしているシエルの肩を叩いた。
「そろそろ帰ろうぜ。もう一時間くらい経ってる。」
近くの公園の時計台で時刻を確認したアズール。
 その行動に違和感を感じたシエルは訊ねた。
「ジーンズのポケットからはみ出している鎖…懐中時計じゃないのか?」
「あ…これか。…壊れちまった。」
一瞬、暗い表情を見せたが、気のせいだったのか、次の瞬間には普通の顔に戻る。
「…壊れたんだ。」
「おう。ほら、戦闘激しいだろ?」
何度か雑魚の魔物と戦ったので、アズールがどういった戦い方をしているのか、シエルもある程度は把握しているつもりだった。
「うん…まあ。」
「さ、帰ろうぜ?帰りながらでも話せるだろ?」
アズールが踵を返した時だ。
 突如、風が吹き荒れ、木々の葉が渦を巻いて空に舞い上がる。
「…なんだ?」
その風の違和感に気づいたアズールは足を止めた。
「気をつけろ。」
シエルが緊迫した表情で、腰の太刀に手をかけ、左手で印を結び始めている。
 その瞬間、一陣の風がアズールの脇を吹き抜け、嫌な気配を感じたアズールは振り返り瞠目する。
 シエルの前に、いつ現れたのか、銀髪の男が立ちふさがっていた。
 大剣の切っ先を彼の喉元に突きつけ、男は切れ長の瞳でアズールを一瞥する。
「悪いが、精霊使は俺が頂く。」
男はそれだけ言うと、竦んで動けなくなっているシエルに顔を向けた。
「ふざけんなっ!!」
アズールは槍を振り上げ、男に迫る。だが、男は片手でアズールをふっ飛ばした。
「…死にたいのか?」
「へっ!そんな脅し、効かねえよ!」
空中で体勢を立て直し、着地してから、一気に間合いを詰める。
 男は冷めた目つきで、何事か唱えた。大剣に紋様が浮かび上がる。
 アズールが技を放つのと、男が大剣を振るうのはほぼ同時だった。
 轟音が轟き、もうもうと砂塵が巻き起こる。
 男はくるりと振り返ると、シエルの顎をくいっと持ち上げ、
「貴様のような者が器だとはな。」
青磁色の瞳が驚愕で見開かれる。
 その時、男は横からかかった何か強い力によって突き飛ばされた。
 脱力し、倒れかけたシエルを支えたのは、ライラだった。
「大丈夫か、シエル。」
後から駆け付けたアズールが、ライラから彼を預かる。
「アズールはシエルを連れて戻って。こいつの狙いはシエルだ。」
ライラは剣を構え、振り返ることなくアズールに指示を出す。
「逃がすわけにはいかん。」
男は立ち上がるなり、印を組む。そして、両手を大地に押しつけると、魔法陣が刻みつけられた。
「縛!」
「なっ!?」
アズールの動きが止まった。
「呪術使いか!!」
「迂闊だったな。精霊使は貰いうける!」
男は素早い動きで、ライラの脇をすり抜け、動けないアズールに詰め寄ると、大剣を振りかざした。
 ライラが止めに入ろうと動くが、間に合うかわからない。
 絶望感がアズールにのしかかった瞬間、
「大地よ、打ち消せ!!」
シエルが叫んだ。
 それと同時に細かい亀裂が地面に走り、魔法陣が掻き消え、アズールは前に体重をかけていたため、地面に倒れ込み、間一髪のところで男の斬撃から免れた。
「何…!?」
「『縛』は単体にのみ効果を及ぼす。」
シエルがアズールに助けられながら立ち上がる。
「お前は、僕が自力で動けるはずがないと思い、アズールの動きを止めたんだろ? 確かに、自力では立つこともままならないさ。でも…。」
シエルはゆっくりと印を組んでみせた。
「印を組むことならできる。」
男は苦虫を噛み潰したように、眉間にシワを寄せると、
「俺が迂闊だったようだな。」
魔法陣を使う術は、大地に刻まれた陣を途切れさせてしまえば、効力を失う。
 シエルは大地に何らかの力を作用させて亀裂を起こし、陣の線を分断させたのだ。
 ライラは今が好機だと判断した。
 男は何食わぬ顔で平然と立っているが、呪術が失敗したことによる反動で、動けなくなっているはずだ。
「覚悟っ!!」
ライラは一気に間合いを詰め、剣を振るった。
 だが、男の姿は掻き消え、刃は空を斬る。
「え…!?」
『光よ。彼女は我が主の手中。貴様に救えるかな?』
男の声が辺りに響き、風が不気味な音を立てて通り過ぎた。
「!!」
『精霊使は必ず頂く。タイムリミットはその時だ。覚悟しておくがいい。』
「待ちやがれっ!!」
アズールが叫ぶも、答える声はなかった。

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