Freedomwing〜神モノガタリ〜 認知(2) 真っ暗闇の空間に、ライラは佇んでいた。 光も何もない空間。だが、自身の体はハッキリ見える。 ライラはとりあえず、歩いてみることにした。 妙にふわふわしていて、歩きづらいことこの上ない。 しばらく歩いていると、ポッと幽かな光が灯った。 その光に照らされ、人影が浮かび上がる。 「光に付き添う器を捕らえよ。」 「何故ですか?」 低い、女性の声が暗闇に響いた。そして、その言葉に疑問を返す、若い男の低い声。 ライラは息を殺して、そのやり取りを聞いていた。 「わからぬか、シャン。器が光と共にいれば、光は強くなるばかり…。我々の目的も達成できん。」 「…御意。」 シャンという男の声が響き、人影がふと消える。 光に付き添う器?我々の目的…? 知りたい。もっと深く知りたい。 剣神のことも、四天王のことも、精霊使のことも…! 強くそう思った時だった。 灯っていた幽かな光が、現れたときのようにパッと消え、辺りは急に闇に覆われた。それと同時に、何かヒンヤリとしたものが首に絡みつき、絞め上げ始める。 「く…っ!」 ライラは必死の思いで首を絞める何かを引き剥がそうともがくが、力が強すぎてどうすることもできない。意識が闇の中へ引きずり込まれていく。 「貴様の強運も尽きたようだな。」 闇から響く、声。先程聞いたあの女性の声だ。 「お前は…。」 「冥途の土産に教えておいてやろう。私は闇に生きる者−−−。」 さらに力がこもり、ライラは息を詰まらせた。 『死』という言葉が漠然とした恐怖と共に心を侵し始めた時、ライラは自分の名を呼ぶ微かな声を聞いたような気がして、目を開ける。 「……!」 光が闇を裂いたかのように思えた。 一筋の眩しい光が閃き、周辺に立ちこめていた闇を真っ白に染め上げ、全てを飲み込んで−−−ライラの意識はそこで途切れた。 −−−ライラ、ライラ!! 「−−−!」 ガバッと飛び起きると、顔を近付けていたのか、アズールが慌ててのけぞり、そのまま椅子から転げ落ちた。 「いってーっ!!」 「だ、大丈夫…?」 アズールは強かぶつけた頭をさすりながら起き上がり、 「俺は平気だが…ライラは大丈夫なのかよ?」 「え?」 ライラは質問の意味がわからず、思わず聞き返した。 「ライラ、うなされていたのよ?」 「あ、うん、平気。」 起きた直後のゴタゴタで、さっき見た夢の詳細はほとんど忘れてしまったが、死の恐怖を味わったことと、その最中に聞いた言葉だけは覚えていた。 さっきの夢はただの夢じゃない−−−。 酒場の賑やかさにかき消されそうなくらいの小さな声で、頭に響くあの言葉を呟く。 「闇…。」 「会ったのか?」 酒場の賑わいに掻き消えそうな声が耳に届いた。顔を上げるとシエルがこちらを見て、首をちょこんと傾げている。 「え?」 「…あ、いや、何でもない。聞き間違いかも。」 先程と同じように微かな声で返答すると、突然イスから立ち上がって、キラの肩を叩き、 「少し外を見に行ってもいいかな?何か思い出せるかもしれない。」 「ああ、いいよ。僕たち、酒場にいるから。」 にこにこ笑いながら返事を返すキラ。 「わかった。行ってくるよ。」 「待てよ、シエル。ひとりで大丈夫なのかよ?記憶ぶっ飛んでんだろ?変な奴に絡まれ−−−いてっ!」 酒場の出入り口に向かおうと、身を翻したシエルを呼び止めたアズールの頭を、ソーサがペシッと叩いた。 「いってらっしゃい、シエル。記憶、少しでも戻るといいね。」 「あ…うん…。」 呆気にとられるシエルに微笑みながら手を振って、彼を見送る。 ガタンとドアが閉まった途端、アズールが文句を言い出した。 「何すんだよ、いてーな。」 「もう、アズールったら、デリカシーないわね。シエルはひとりになりたかったのよ。」 「何で。」 「記憶を思い出すのに私達がいたら邪魔でしょっ!」 またもペシッと殴られるアズール。見かねたキラがふたりの間に割って入った。 「まあまあ、ソーサ。アズールにデリカシーを求めちゃダメだよ。アズールは昔からバカだから。」 「バカで終わらすな!」 「…そうね。」 「だぁっ!ソーサも納得すんじゃねぇっ!」 三人のやり取りにライラはクスクス笑いながら、ふと窓の向こうの空を見つめる。 姫は今頃どうしているだろうか…。 一刻も早く、姫に関する情報を集めなくては。 ライラは小さく溜め息を吐くのだった。 [*前へ][次へ#] |