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Freedomwing〜神モノガタリ〜
さだめの歯車(3)
 体力を使い果たし、為す術もなく倒れ伏すライラに振り降ろされる、フェイニアスの大鎌。
「ライラ−−−ッ!!」
アズールの叫び声があたりに響き渡り、くすぶる炎に焦がされる空へ吸い込まれていった。
 誰もが助からないと思った。
 ライラ自身も『死』を覚悟した、その刹那。
 振り降ろされた鎌が見えない何かに弾き飛ばされた。
〈な…!?〉
「え…?」
ザッと地面の砂を踏みしめる音が耳に届く。
 アズール達は振り返り、瞠目した。
 見慣れない衣装を纏った青年が、胸の前で片手の印を組み、何事か唱えながら、フェイニアスに向かって歩を進めている。
 歩く度にチリンと澄んだ鈴の音が響いた。
〈貴様、何奴…!?〉
フェイニアスの声音にも焦りが滲み出ている。
 青年はなおも何かを唱えながら、印を組んでいない方の手で、腰に差した剣を抜き放つ。
「斬流閃。」
その呟きに呼応するかのように、剣に水が宿った。
 突然、青年が走り出す。風に揺られて、額に巻いた赤い布の余った部分がヒラヒラと舞う。
 片足だけで踏み切り、高くジャンプ。
 水を纏った刃を振り下ろす。
 受け止めた鎌の柄が折れ、切っ先はフェイニアスの肩口を斬り裂いた。
〈ぐ…っ!!貴様…何者だ…。〉
「貴様に名乗る名などない。」
澄んだ低い声がその口から漏れる。
 フェイニアスの斬り返しを青年は鈴の音を響かせながら軽々と跳躍して躱し、空中で印を片手で素早く組んで、
「舞踊水神、宿魂剣刃(しゅっこんけんじん)。…龍神閃刃(りゅうじんせんば)!」
白銀の刀身に龍の模様が薄く浮かび上がる。その模様から水が噴き出し、螺旋状に刀身を包み込んだ。
 ライラは目を丸くした。あんな剣技は見たことがない。
 魔法でもない。気術でもない。
 青年が剣を横に構えて、フェイニアスに詰め寄り、薙ぎ払った。剣を包む水から雫が滴り、細かい水滴となって舞い散る。
 フェイニアスは間一髪のところで避けた。だが、切っ先は炎のマントを捉え、少し斬り裂く。ジュッという音と共に白い水蒸気が立つ。
〈おのれ…覚えていろ!〉
マントを翻し、炎を纏って消え去った。
 青年はストンと着地すると顔を上げ、溜め息をついた。刀身を包んでいた水が消え、そのまま輝きを失う。
「ライラーッ!!」
アズール達が走りよってきた。
「大丈夫か!?」
「ん…大丈夫。」
アズールとキラに手伝って貰って、なんとか立ち上がる。
 ライラは落とした剣を拾い上げると、青年を見上げた。
 綺麗な青磁色の瞳。彼はライラを見つめ、戸惑ったように他の三人を見回す。
「あの…、助けてくれてありがとう。」
「え…、いや…。」
青年はびっくりしたようにライラを見て、困ったような笑顔を見せる。
「お前、強いなあー!!見たところ腕章をつけてねえようだが…国家戦士か?」
アズールが腕を頭の後ろで組んで、ケラケラと笑う。
「国家戦士…。」
「おう!…違うのか?」
「ああ…うん…。」
青年は曖昧に笑い、
「あの…ここ…は?」
「へ?」
四人は一斉に呆けた。
「−−ちょ、ちょっと待て!」
「?」
首を傾げる青年。
「君…記憶喪失なの?」
キラの質問に青年は少し苦笑し、
「…よくわからないんだ。」
「ここはシオン。防衛庁があるのよ。」
「シオン…。」
「ええ。」
ソーサの説明にもピンと来なかったようだ。
「名前は覚えているの?」
「あ、え、名前…?えっと…。」
「おいおい…名前まで忘れてんのか?」
「いや…覚えているよ。俺の名はシエル・リスフィア。精霊使(スピリチュラー)シエルだ。」
その自己紹介にキラ以外のみんなが首を傾げる。
「精霊使…。」
「聞いたことねえな。」
「え…?」
今度はシエルが首を捻る番だった。
 全く話が噛み合っていない。
「…まあまあ。シエル君も困ってるし。質問会は宿に行ってからにしようよ。」
キラが場をとりなした。
 そうだな、と納得し頷くアズールとソーサ。
 ライラも剣を鞘に収め、
「俺も疲れちゃった。」
火傷を負い、あちこち痛む。それは他の四人も同じだったようだ。
 ライラの言葉にアズールが僅かに苦笑する。
「え、っと…?」
「お前も来いよ。あ、俺、アズール・ローハ。コイツはキラ・ヨーハル。よろしくな!」
「よろしく。」
アズールが手招きし、シエルは嬉しそうににっこり笑う。
「私はソーサ・エイス。防衛庁長官の娘よ。」
「俺はライラ・ローマン。」
「アズール君、キラ君、ソーサさん、ライラ君…だね。よろしく。」
彼のはにかんだ笑顔にライラ達は微笑みを零した。


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