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Freedomwing〜神モノガタリ〜
さだめの歯車(2)
 のどかな空の下、ライラは、キラ、アズールと共にシオンの大通りを歩いていた。ソーサも一緒だ。
「たったの一週間で退院出来ちゃうなんて、驚きだわ。」
「お医者さんも驚いていたよ。」
ソーサが信じられないと言うような口調で言えば、キラもうんうんと頷く。
「そりゃねぇ…。」
命に危険が及ぶほどだった傷を、一週間で完治させてしまったライラの治癒力には誰もが目を見張った。
「ほんと、とんでもねえ治癒力だぜ…。」
アズールが腕組みをして、しみじみと呟いた時、突然背後から声をかけられた。
 振り返ると、ひとりの兵が慌てた様子で、こちらに向かって走って来ている。緊迫した空気があたりを満たす。
「何事だ?」
ソーサの纏う雰囲気が一瞬にして変化した。それに伴ってか、口調も声音も指揮官としての鋭さを帯びる。
「炎を纏った魔物が、襲来してきました!」
「炎…?ここら辺に炎属の魔物っていたか?」
アズールが首を傾げた。
「今はそんなことを言っている場合じゃない!兵士さん、早くそこに案内して!」
ライラは唇を噛み締めた。タイタニアに襲われた村の無残な光景が、脳裏に浮かび上がる。
 あんな光景、もう見たくない。
「わかりました!」
ライラのただならぬ様子に、兵は慌てて敬礼をして踵を返し、ライラ達もその後を追った。

 現場は街を出てすぐの街道だった。
 酷い有り様だ。焼け焦げた遺体、くすぶる黒煙。嫌な臭いがあたりに充満している。
 国家戦士として、人には言えない現場もたくさん見てきた。だが、この光景には目を伏せたくなる。ライラは歯を食いしばり、平常心を保つのに必死だった。
「…こんな事ができるのは…。」
キラが震える唇で呟く。
「アイツしかいねえだろ!」
響き渡るアズールの怒声。それを掻き消すように、くすぶっていた炎が急に燃え上がり、ひとりの男が炎で出来たマントを翻して姿を現した。
 痩せた長身の美青年は、切れ長の冷めた瞳でライラを一瞥すると、低い声で、
〈待ちくたびれたぞ、我が主を封じし光。〉
「お前は…!?」
心臓を鷲掴みにされたような緊張感がライラの体を駆け巡る。
〈我が名はフェイニアス。炎の魔人だ。光よ、地獄の業火で焼かれ、悶え苦しむが良い!!〉
どこから出現させたのか、巨大な鎌を軽々と振り回し、炎を発生させる。
〈火炎龍!〉
「うわあっ!!」
発生した炎が龍の姿を象り、ライラ達に襲いかかった。
 キラは地面を転がって避け、アズールはソーサを庇って伏せ、ライラと案内してくれた兵は横っ飛びで躱す。
「あなたは下がって下さい。あいつは四天王のひとり。ただの魔物ではありません。」
隣りで腰に差した剣を抜いて構えようとする兵を制するライラ。
〈余所見をする余裕などないはずたが?〉
「ライラさん!」
振り返ると、炎が襲いかかってきていた。
 ライラは躱そうと跳躍体勢をとったが、ふと、後ろの兵のことが頭をよぎる。自分は出来るが、この兵は普通の人。アズール達ならともかく、彼は避けきれないはずだ。
 ここで躱すわけにはいかない。
 ライラは下げていた鞘から剣を勢い良く抜き放つ時の動きを生かして、
「刃流閃!」
薙ぎ払われた剣から風とともに真空波が放たれ、炎を打ち消す。
「今のうちに逃げてください!!」
「あ、はいっ!!」
しばらく呆けていた兵はライラの言葉で我に返ると、パッと敬礼してから踵を返す。
〈なかなかいい判断だな。〉
「罪なき人を傷つけるのは許さない!」
アズール達がライラの周りに集まってきた。
「フェイニアス!街のみんなの仇だ!」
キラが槍を構え、怒りの形相で男を睨みつけている。
 アズールも尋常ではない憎しみのオーラを漂わせていた。
「街のみんなの恨み、受けてみやがれ!!」
同時に走り出す二人。アイコンタクトを取り、二人は声を重ねて叫んだ。
『スパイラルスウィング!』
アズールがまず、走りながら溜めた気を螺旋状に槍から繰り出して攻撃し、それが決まった直後にキラが近距離から薙ぎ払う。
 舞い上がる砂煙。その向こうから炎の龍が飛び出し、キラとアズールは吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「く…効いてねえのかよ。」
〈ふ…。人間とは愚かなものだな。地獄の業火、受けてみよ!〉
振り上げられる大鎌。その三日月状の刀身に炎が宿る。
 ライラは走り出していた。この状況では、例え数々の修羅場を潜り抜けてきた二人でも、あの攻撃は躱せない。
 鎌が振り降ろされる。その刀身を剣で受け止めるライラ。
 滑り込む形で間に割って入り、間一髪のところで二人の窮地を救ったのだ。
「二人とも下がって!」
「バカやろう!んなこと出来るか!!」
「そうだよ!」
アズールとキラが首を振った。
「いいから下がって!!」
『いやだ!』
息の合った二重奏に、フェイニアスが笑い出す。
〈実に面白い。ならば、まとめて始末してくれよう!!〉
鎌を薙ぎ払い、ライラを吹き飛ばしてから、もう一度鎌を振り上げる。だが、その時、
「空烈波!」
波動がライラ達を掠め、フェイニアスに襲いかかった。吹き飛ばされるフェイニアス。
 振り返るとソーサがにっこり微笑んでいた。
「ソーサ!」
「…つえぇ。」
〈おのれぇ…小童どもめ…!〉
フェイニアスが鎌を振り上げた。刀身に宿る炎が青白くなる。
 ライラはフェイニアスに向かって走り、アズールとキラは示し合わせたかのように、同時にソーサの元へ走り出した。
〈四人まとめて、跡形もなく消し去ってやろう!〉
「やめろおおっ!」
〈鎌獄炎!〉
薙ぎ払われた鎌から青白い炎が放たれ、波のようにライラ達を襲う。
「うわああっ!!」
体を締め上げる縄のように炎が巻きつく。あまりの熱さにライラは悲鳴を上げるしかなかった。
 このままでは、焼け死んでしまう。
「く…っ!」
〈さあ、苦しむがいい!貴様ら人間の断末魔の叫びは耳に心地いい。〉
ライラは気力で遠のく意識を繋ぎ止めた。
 ここで自分が倒れたら、フェイニアスはシオンの人々を襲う。なんとしても食い止めなければ。
 四天王を倒すことが出来るのは、自分だけなのだ。負けられない…負けるわけにはいかないっ!!
 ライラのその強い想いに応えるように、剣から光が溢れ出した。
「でやあああっ!!」
剣を一振りし、炎を掻き消す。
 剣から放たれた風はアズール達を苦しめていた炎をも断ち切り掻き消した。
〈なかなかやるようだな。ならば、散紅蓮!〉
花びらのような炎が舞い踊りながら、ライラに襲いかかる。
 体力を炎の洗礼で根こそぎ奪われた上、さっきの一振りで完全に使い果たしたライラに、この一撃はかなりの痛手だった。為す術もなく倒れ込む。
〈所詮は小童。造作もないな。眠るがよい!!〉
フェイニアスが大鎌を振りかぶった。ライラは立ち上がろうと足掻く。だが、力が入らない。
「逃げて!」
キラが叫ぶ。
 彼らも、ライラと同じように炎の洗礼を受け、体力を奪われていた。
 動ける者はいない。
 容赦なく振り降ろされる鎌。
「ライラ−−−ッ!!」
アズールの叫びが空に吸い込まれていった。


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