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Freedomwing〜神モノガタリ〜
さだめの歯車(1)
 海の底から浮上するように、闇から意識が浮かび上がる。
「う…、うーん…。」
眩しい日差しにライラは反射的に目を瞑り、もう一度、ゆっくり瞼を開ける。
 まず、白い天井が目に入った。窓から差し込む光が反射して淡く輝いている。
 枕元には点滴の袋を吊した金属の柱。口元には呼吸器。
 どこかの病院らしい…。
 サイドボードの上に、赤いハチマキが綺麗に畳まれて置いてあった。
 ライラは起き抜けの頭を回転させて、ここにいる理由を思い出そうとした。
 四天王のひとりであるタイタニアと戦って、その後の記憶がスポッと抜けている。トドメを刺したかどうかも朧気だ。
「俺は…一体…。」
考え込むライラをよそに、病室の扉前が騒がしくなる。
「ライラ、起きてるかなあ。」
「うーん…、どうだろう。相当なダメージだったらしいし…。」
「きっと大丈夫よ。」
アズールとキラ、そして聞き慣れない声。ライラはドアの方を見つめた。
 すぐにコンコンとノックされ、キラが顔を覗かせる。
「ライラ、起きてる?」
「どうぞ。」
ライラはにっこり笑い、キラに小さく手を振った。
「起きたんだ、良かったあ…。」
「なんだ、起きてたのか。ったく…心配させやがって。」
キラに続いて、一言余計ながらも心底安心したようにアズールが入ってくる。そして、見知らぬ少女も。
「その子は?」
ライラが少女を見る。年頃は同じくらいか。漆黒の髪を後ろでひとつにまとめている。
 引き締まった口元、明るいオレンジの瞳。端正な顔立ちなのだが、どことなく風貌がライラに似ていた。
「私はソーサ。ソーサ・エイスよ。呼び捨てで良いからね。」
「彼女は国防長官の娘さんで、この街の防衛指揮官なんだよ。」
キラがにこやかに紹介する。
「へぇ…だから制服なんだ…。あ、俺はライラ・ローマン。よろしくね。」
「こちらこそよろしく。」
ソーサは微笑むと、
「ライラ君が起きたこと、看護師さんに伝えないといけないわね。私、言ってくるわ。」
「ありがとう、ソーサ。」
まとめた髪を揺らして部屋から出て行くソーサ。キラは礼をいい、アズールは黙ってその背中を見送った。
「ところで、ここはどこの街の病院なの?それから、俺の剣は?」
「あれ、言ってなかったっけ。ここはシオンだよ。剣は僕たちが預かってるから安心して。」
「剣はさすがに病室にまで持ち込めねえよ。…ま、ゆっくり休め。」
アズールが珍しく優しげな口調で呟いた。
「ねぇ、俺…タイタニアにトドメ刺したっけ?トドメを刺す前は覚えてるんだけど、その後があやふやでさ…。」
キラとアズールは顔を見合わせると、
「実は僕もよく覚えていないんだよ…。ライラがタイタニアの胸部に攻撃した瞬間、真っ白な光が溢れて…。光が消えた後、あたりを見回すと、埋め尽くしてた大量の砂も、タイタニアも、村人の遺体もなかったんだ。」
「お前、かなりひでえ怪我だったんだぜ?あと一時間病院に担ぎ込むのが遅かったら死んでたかもしれないって医者も言ってたし。」
キラとアズールが、気絶している間のことを説明してくれた。
「そうだったんだ…。」
「ソーサの迅速な判断がなかったらと思うとゾッとするよ。」
「ソーサが…?」
「ああ。この街、防衛がやたら厳しくてさ…街に入るためには旅人(りょじん)証明書か国家戦士証明カードがいるんだ。」
「でも、チェックを受けている場合じゃなくて…。」
「俺が強行しようとした時にソーサがやって来て、入ることを許可してくれたってわけ。」
シオンは昔から魔物や盗賊に襲われやすい地域だったため、防衛に特化しているのだ。国家戦士の前身となるシステムが生まれたのもこの街である。
「ふーん…。ソーサにお礼を言わなきゃね。」
その時、話題に上っていたソーサが看護師を連れて戻ってきた。
「あ、ソーサ。話は聞いたよ。ありがとう。」
「お礼なんていいわよ。当たり前のことをしただけだから。」
看護師さんが手際よく、傷口の包帯を取り替えている。
「じゃ、僕たち、そろそろ宿屋に戻るね。」
「また見舞いに来るからな。」
キラがアズールとソーサを促して病室から出て行った。
 彼らを見送っていたライラは、看護師さんの『あっ』という声に驚いて、慌てて振り返る。
「どうしたんです?」
「…あれほど酷かった傷が…完治しかけているのよ。先生を呼ばなければ。」
看護師さんは慌てた様子で病室を出て行った。
 部屋にはライラひとりだけ。
 窓の外には気持ちよさそうな空が広がっている。
「…四天王、か。」
四天王とは、一体何者なのだろう。
 タイタニアは人間を狩るのが楽しみだと言っていた。魔物にも色々あるが、殺すことを楽しみとするような魔物はごく一部。まあ、人間が魔物化した場合は除くが。
 だが、どう考えてもタイタニアは魔物化した人間ではない。生粋の魔物だ。生粋の魔物の場合、悪魔系が殺人を好むが…。
「キラなら何か知っているかも。」
ライラはひとりごちて、小さく溜め息をつくのだった。


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