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Freedomwing〜神モノガタリ〜
目覚め(1)
 月明かりが寝静まった村を照らしていた。
 100人程の住民が農業や林業に従事し、生計を立てて暮らしている、どこにでもある小さな村。
 そんな何の変哲もない村が、一夜にしてこの世から消滅した−−−。

 「この先に村があるんだ。そこで一旦休もう。」
アトレアで仲間になったアズールを加え、ライラ達三人は空高く昇った太陽の光を浴びながら、少し険しくなった街道を歩いていた。
「キラって地理詳しいね…。」
「あいつ、頭良いからな。」
「アズールが勉強しないだけだよ。」
笑顔で返答するキラ。怖い。だが、アズールは何でもないように、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。親友で幼なじみの二人にとってはいつものやり取りなのかもしれない。
「姫…。」
幼なじみで思い出すのは、大切な人の笑顔。
 今頃何をしているのだろう…。
「なんか言ったか?」
ライラの呟きが聞こえたか、アズールが振り返った。
「な、なんでもないよ!」
「ふーん…。」
アズールは冷やかすような目でライラを一瞥し、すぐに視線を前に戻す。
“必ず、助けに行くから…。”
待っていて下さいと、ライラは青い空を見上げ、心の中で呟いた。

 舞い上がる砂埃。ライラは少しむせながら、前を歩くキラの背を見つめる。視界も悪く、足元も砂漠か雪の中を歩くように、降り積もった砂にズボズボ埋もれて上手く歩けない。
「ここに砂漠なんかないはずだぜ…この辺は森林地帯なんだから。」
アズールが戸惑ったように辺りを見渡し、緑がないものか探している。
 何人かの旅人が急ぎ足で前から歩いてきた。
「ここから先は進まない方がいい!砂漠地帯にしか生息しないはずのスコーピオがいるんだ!」
「スコーピオ…一体何が起こっているのですか?」
「わからん…昨日まではいつもの森林地帯だったんだが…。」
旅人達は、とにかく進まない方がいいと念を押し、足早に去っていく。
 ライラは旅人達の背を見送って、砂埃が舞う、その向こうを見つめた。
「スコーピオがいるなら、引き返した方が無難だね…。」
「確かにな…。」
スコーピオとは蠍型の魔物で、全長1.2から1.6メートル、巨大なモノは2.4メートルにも達する。
 尻尾に毒針を持ち、この毒にやられたものは数時間で死に至る。毎年40人程がこの毒にやられて亡くなっているという話で、誰もが恐れる魔物のひとつだ。
「でも、この先には村があるんでしょ?このままじゃ、その村の人達もスコーピオの餌食になっちゃうよ!」
「そりゃそうだが…。」
困ったように頭を掻くアズール。
「相手は生きた殺戮兵器とも言われるスコーピオ。どんなに強力な武器でも通用しない鋼鉄の鎧と、自分よりデカい相手でも仕留めてしまう毒の持ち主だぜ?」
「それでも…行かなくちゃ!戦う術を持たない人々を護るのが、俺たち、国家戦士の役目!これは戦う術を持つ、俺たちにしか出来ないことなんだよ!!」
ライラは砂埃の向こうを睨み、もう一度、二人に視線を戻す。
「ごめんね、また癇癪起こしちゃったみたい。二人は先に戻ってて。」
「…ばーか。」
アズールがどこから出したのか、槍を担いで、
「一人で行かせるわけねぇだろ。」
「そうだよ。僕達、仲間じゃないか。」
「…ありがとう、二人とも!さあ、行こう!」
降り積もった砂に足を取られながら、ライラ達は歩を進めた。砂を舞わせる風。まるで、その先に進むなと言っているかのように道を阻む。
「なあ、キラ。」
「何、アズール。」
「俺、あいつが剣神だなんて信じてない。仲間になったのも、力を貸してやってもいいかな、っていうくらいの軽い気持ちだ。でも…。」
アズールは前を歩く小さな背中を見つめた。
「さっきの言葉、普通の人間には言えないよな。」
「…そうだね。」
自分の故郷ならいざ知らず、ライラは見ず知らずの小さな村を救おうとしている。
 ただ正義感が強いだけなのか、はたまた弱者を放っておくことが出来ない性分なのか…。
「彼みたいな人が武器を取るべきなのかもしれないね…。」
その言葉が風に掻き消された時、今まで吹き荒れていた風がピタッと止まり、急に視界が開けた。
 サンサンと降り注ぐ太陽の暖かい日差し。少し霞がかった淡い空。
 穏やかな春の天空がそこにあった。だが、地上は−−−。
「……。」
「こんなの…こんなの…っ!」
赤い布がヒラヒラ揺られ、指先が白くなるまで握り締められた拳がわなわなと震えている。
 キラ達も絶句して、眼下の風景を見つめた。
「こんなの…許せない…っ!」
砂に埋もれた小さな村。
 そして、その村の住人達は、砂の海で二度と動かぬ骸と化していたのだった。

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