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「いや、嘘付け。何でもある顔してるよお前…」
「何でもあっても今回は企業秘密だよ」
「うわー!!ハブだ!!坂木のバカ!!教えろよぉ」
「イ ヤ ダ」
嫌味っぽくそう言ってみる俺に、伊藤は「馬鹿ちん!お母さん、そんな子に育てた覚えはありません!」とノリが良い。
こんな俺と伊藤の意味の無い争いは、放課後の日課並みに日常茶飯事だ。
「よし!坂木くん!!ここは、君の好きなチュッパ●ャップスのラムネ味の“袋”をあげよう。手をうとうじゃないか。」
「シネ☆現金よこせよ。親友だろ?伊藤君」
「あ、それ知ってるよ!最初にカツがつく揚げ物だろ!?………って、ばかやろぉおぉ!!」
「わかったよ、そんなに言うなら…… 伊藤君!!お金下さい!!」
「腰が低ければいいもんでもねーよ。つか分かってないよねソレ?全然分かってなかったよねソレ?」
「イトウクン、ナンノコトヲ イッテルノカイ?」
「坂木君…君一回キレイな花畑と川のある場所言ったほうがいいよ。」
その後もギャーギャー騒いでるところで教室に担任が入ってきて伊藤の詮索だったはずの遊びはおわった。
朝読書。
授業。
掃除。
俺はもうフワフワといった表現が一番似合う気持ちでいた。一度「何がそんなに嬉しいんだ?」って先生にも印注意も受けた。いつも以上に授業内容は頭に入ってこなかったし、末期症状とか思いながらも一日が過ぎるのは早かった。
放課後の教室から夕暮れがみえる。窓からのぞく箱型に切り取られた情景は燃え上がる炎のようだ。西の空はまだほんのりと青が残っていて境界線に薄っすらと黄色の絵の具がぬられてた。秋の空だ。
「ゆーすけー!!」
ほら今日も日課の時間だ。背中にあたる体温に嬉しくなって笑いがこみ上げてきた。
「あれ?今日はおこないんだ?」
涼は、これは驚いた。っていう感じの声を上げて抱きつくような体制から手を伸ばして俺の頬をしきりにつついたり引っぱたりしてる。
夢じゃないから。
「今日の俺は機嫌がいいんだよ。今日だけだかんな!」
「そーなんだよー!!涼平!坂木のやつ朝からこんなんだぜ〜!!?」
涼に言ったはずの言葉は、思いがけないほうから返ってきた。振り向くとサッカーのウィンブレを着込んだ狐目が涼の肩越しにたっていた。
そいつに涼は「あ〜、伊藤。いたの?」と結構ヒドイ言葉をかけてる。それにもめげず、はたまた気にしていないのか伊藤は話を続ける。
「理由聞いても教えてくれなくてさぁ…だって何しても怒んないんだよ?」
ホントまいっちゃうぜ。と言いながらも参ってる感じは微塵もなかった。
「あ!!分かった!好きな子できたんだろ!!?そんでもって、その子と良いことがあったとか!!?」
「は!!?なんで知ってんの?………あっ…。」
あ、あ、あぁぁああぁあ!!
「あっれ!!?マジだったの!?俺エスパー……つか、誰?相手誰よ?」
興味深々といった風に聞き耳を立てる伊藤の顔。イキイキしてる。俺はというと自分の思わぬ失言にあたふたとしながら、しきりに涼の反応を伺ってたりする。
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