serial story
1
俺は今、最大のピンチに立たされている。
目の前にあるでっかい黒い鉄の塊。
それから出ている黒い煙。
と、それに乗り込む大勢の人々。
そして、その最後尾に嫌々並んでいる俺。相楽左之助、19歳。
そう、今俺の眼の前にあるのはあの『陸蒸気』とか言うやつだ。
俺のもの凄く嫌いとするものの一つだ。
出来ることなら、すぐにでもこの場から逃げ出したい。
俺は震える足を両手で抑えつけながら、祈るような気持ちでそこに立っていた。
何で俺がこんなもんの前にいるのかというと、それは昨日の晩までさかのぼる。
ガタタタタンッッ!!!
もの凄く大きな音を立てながら、俺の家の建てつけの悪い戸が揺れた。
家の中で寛いでいた俺はその音にビックリして、その方向を見る。
戸の前には人の影が一つ。
俺はその方向に神経wp集中させ凝視していたが、やがてゆっくりと戸が開かれた。
そして、その先にいたのは疲れ切った表情をした張だった。
「張っ!!」
今にも倒れそうな張の元まで駆け寄り、俺はその体を支える。
そして、家の中へ運び込んだ。
「おい、大丈夫か!?」
あまりにもグッタリしている張をその場に寝かせる。
「どうしたんだよ、おい。」
「あ、あかんて・・・。も、限界や・・・。」
「何が?」
「左之助、例の仕事・・・やってくれる言うたやつ。・・・あれ、明日や。」
なんだって?
例のって。この間、警視庁で言ってたあれのことか?
「明日、の10時に東京駅・・・。詳しくはこの、紙に・・書いてあるよ、って・・・。」
「?」
俺は張が差し出した折りたたまれた紙を受け取る。
「ほ、な・・・。」
「えっ!?おいっ。」
俺は制止の声を掛けるが、時すでに遅し。
張は玄関に寝転んだまま、ピクリとも動かなくなった。
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