serial story
6
「あんな、左之助。お前、俺の代わりに仕事して欲しいねん。」
「・・・はぁ!!?」
俺は思ってもいなかった張からの頼みに声を上げる。
「いや、仕事って・・・。お前密偵だろ!?密偵の仕事俺にやらせるってどうなんだよ!!」
俺って今、確実に正論を言ってる。
よりにもよってそんな頼み、俺にきけるわけがない。下手をすれば、命が飛ぶだろうが!!
「大丈夫やって、そんな大した仕事やないから。」
いやいやいやいや!!
大した、大してないの問題じゃない。
そういうことじゃないだろう、そういうことじゃ!!
大体、大したことじゃないにしても、俺にこいつの仕事が務まるわけがない。
だって、自分で言うのもなんだが、俺ってかなりガサツ。
こんな俺に、多分イメージ的に繊細な仕事=密偵なんてできるわけがない。
例え、出来たところでそれは俺に何の得にもならなし。
俺は、断固拒否する。が・・・。
「左之助、男に二言はなしや・・・。」
・・・何か、急に張の声色が低音に・・・。
「一回言うたことを、曲げるきか?」
目が怖いんですけど・・・!!
俺は、オズオズと後ずさりしながらこちらに迫ってくる張から逃げる。
が、それも壁によって阻まれてしまい、俺は前にも後ろにも引けない状態になってしまった。
「なぁ・・・?」
最後の忠告とでも言わんばかりに張が俺の顔を見下ろす。
いつもは陽気に笑っている張だが、こいつのこんな顔を見ると、元十本刀という肩書きを思い出させられる。
そんなことを考えている俺はと言うと、完全に逃げ腰。ややへたり込み気味。時々涙目。
格好悪い・・・。
こうなったらどうにでもなれだ!
どうやってもこの状況を回避できないと思った俺は
「わわわわかったよっ!!」
押されまくって、その話を呑んだ。
もう、これは強制的だ。
そんな俺の返事を聞いた張は
「そうかそうか、やっぱ話しのわかる奴やなぁ。」
さっきの怖い眼はどこへやら。
張は満面の笑みを俺に向けながら、よしよしと俺の頭をなでてきた。
ガチャッ
「ガチャッ?」
俺と張はその無機質な音のした方向に目をやる。
と、そこには
「斎とっ。」
「何してるんだ?」
今しがた巡回から帰ってきたであろう斎藤に俺の言葉は完全に遮られた。ん、だけど。
アレ?
「貴様ら、何してるんだ?」
俺たちは斎藤の様子がおかしいことに直ぐに気がついた。
おかしいって言うか、いつか体験した『黒い』ものを感じた。
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