小説 六話:激戦の証 リールでさえも、俺に驚いていた。俺も驚いているくらいだし。 先ほどみたいにゆっくりとなった空間を平然と歩きつつ、敵に一撃ずつ加えていく。明らかに普段の状態とは違うが、利用しない手はない。 かろうじて、リールだけが俺のスピードについてきていた。それでも歩くくらいのスピードが精一杯で、俺もリールにあわせて歩いていた。 敵中を堂々と正面突破して、進む度に敵に一撃を加えていく。吹き飛ぶのさえゆっくりなために、なかなか邪魔だが、それはそれで楽しかった。 前に居た敵の顔面を、壁に向かって殴る。左ストレート一本でも充分だったようで、吹き飛ばされていく。 ようやく狭い廊下の端まできて、軍の群れを通過した。リールは俺についてきているが、少し疲れぎみ。後ろを振り向いて未だにゆっくりな人々を見ると、 また急に元の速さに戻った。吹き飛んで、壁にめり込んだり、痛さに倒れる人々の姿。 チラリとリールを見れば、目を丸くして、 「…どうやって?」 「さぁ…俺もわかんね」 砂ぼこりと煙と静寂が、廊下に漂い、俺は一言。 「速く行くぞ?」 「…わかった」 気を取り直して、シュードの元に向かった。 「グゥッ…ハァ…ハァ」 「ハァ…ハァ…ッく…」 「…あのよ…俺もキツいから、さっさと降参してくれよ…戦いづらいし」 「…いえ…降参はしません…フレイドたちは戦っているのですから…」 「フレイドたちは大丈夫…だから、俺も逃げない!」 「…ふぅ、正直、俺もなかなかやられてんだよなぁ…」 シュードとロギレスは、棒を構え直す。ジェントは床に突き立てた長剣を引き抜く。 双方の体には数多の傷がついていて、激戦の証を刻んでいる。 壁は半壊、床にはヒビが入り、シュードとロギレスの体はぼろぼろ、ジェントの服も、一部破かれていた。 瞬間、ロギレスとシュードの棒が降り下ろされる。ジェントは易々と避けると、長剣を横に振る。すぐにシュードが棒で受け止めて、ロギレスの反撃。研ぎ澄まされた一撃さえも、ジェントにはかわされる。並外れた動体視力を持ったジェントは、ほとんどの攻撃をかわしてしまうのだ。 「はぁ…ぉらあああ!」 「ぐッ…危ねぇ…」 シュードの素早い一撃が放たれる。今までスピードが落ちてきていたため、急な攻撃をかわすのはなかなか難しい。その隙を、ロギレスが突く。この一撃に全てを賭けて、思い切り棒をつきだした。 棒の先が、ジェントの体に直撃する。ジェントは思わずうめき声をあげ、体が後ろにのけぞった。追撃とばかりに、二人は雷をジェントにぶつけた。 同じ雷属性の力をコピーしたジェントにとって、さほど効果はないが、少しでも攻撃を続けないと、今しかチャンスはないのだ。 ロギレスは、後ろへ吹き飛ばされたジェントの元にすぐさま移動し、棒で腹を打つ。咄嗟にジェントは腕で受け止めるも、完全には勢いを殺しきれずにダメージを受けている。いつの間にか移動していたシュードは、今度は背中を棒で叩いた。ジェントの口から血が吐かれる。しかし、二人は攻撃の手を緩めない。今のうちに、とにかくダメージを稼がなくてはいけないのだ。 「はぁ…らぁああ!」 シュードが七度めの攻撃を放ったとき、 「…っ、虚妖…98番!」 「うっ…グ…」 ふいに与えられた恐怖により、シュードの体が固まった。ロギレスもジェントに攻撃をするが、かわされた。 「はぁ…はぁ…っ、お前ら、よくやるなァ…いってぇぇ……」 「っ、シュード…」 「ロギレス、わかってんだろ…そいつは動かねーよ…術者を倒さないとな…」 「ならば…あなたを倒します…」 「ったく…」 ロギレスはまたもやジェントに飛びかかっていった。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |