小説 六話:過去編4 まず、最初に言えるのは凄まじい叫び声でした。地獄の苦しみを浴びたような声が山に響き渡り、木々が揺れました。 黒いもやがショウさんを包んでいて、全く様子を見ることはできませんでした。 『ウガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』 地響きと共に、ショウさんのもやはどんどん大きくなっていきました。やがて、それは巨大なライオンのような形になりました。要するに、ラトに近づいているのです。 …数分間、そのままでした。 すると、もやがだんだん晴れてきて…いえ、ラトの体内に吸い込まれていきました。 真っ黒な、針のような体毛… ねじり曲がった長い尾… 四肢の先の爪は剥がれていて、 牙はいくらか欠けていました。 本当にみすぼらしいラトの姿が、そこには立っていました。純血のラトより劣るであろうその姿は、僕の中で複雑な心情を浮かばせました。 しかし、ラトは興奮気味で、僕に話しかけてきたのです。 『どうだレイトォ!成功したぞォ…いくらか欠陥は見つかるがァ…素晴らしい…』 『あなた…はそれが進化とでも言うのですか…?そんな無様な姿になって…何が進化ですか?それで国を潰して楽しいですか?』 『無様だあァ?お前も殺すぞォ…レイトォ。最初はお前だけ許すつもりだったがァ…変更だなァ…?』 その瞬間、ラトの体から炎が溢れました。 熱量で言えば、恐らく普通のラトより強力でした。慌てて僕と国王軍は下がりましたが、その炎はどんどん大きく、熱く、高くなっていきました。そして強大な炎の壁からラトの爪が剥がれた前足が飛び出てきて一瞬で近くの木々を凪ぎ払いました。今ので、国王軍が三人死にました。 僕は塞き止めるために、氷の壁を作りました。 しかし一瞬で蒸発しました。液体になったのすら一瞬でした。 『ハハハァッ!どうだ?これでも無様かァ!?』 何度も来る前足の攻撃を避けながら、迫る炎の壁から逃げます。 すると炎の壁から巨体な炎の珠が発射され、一瞬で着弾します。 僕と共にいた残り二人の国王軍は、焼け死にました。 『もう死んだかァ!?つまらねえやつらだァ…レイトはもっと楽しませてくれるよなァ?』 多数の炎の珠が僕に向けて撃たれて、一度も当たらずにかわせたのは奇跡だったと思います。 しかし、炎の壁はどんどん近づいていて、もうすぐ僕も焼け死ぬのでしょう。 その時、 『レイト!大丈夫か!』 スカイルさんが後ろに現れて、炎の届かない上空に瞬間移動しました。 ヤードさんが小さな竜巻を起こして、その上に浮きました。 『チィッ…上かァ…!っお、スカイルとヤードじゃねーかァ…久しぶりだなァ…』 炎が晴れて、ラトと化したショウさんの姿があった。 『っ、アイツショウなのかよ…』 『面影もありませんね…醜くなったものです』 冷淡なヤードさんの声が聞こえた。 『醜いだァ!?お前らの方がよっぽど醜いわァ!魔物を利用しないで殺しまくって、サイコパス共がよォ!』 『レイト、よくやったよお前は…後はアイツを殺して終わりだな』 『レイト…苦しいのは分かりますが、アイツを殺さないととんでもないことになります…』 僕の複雑な表情を、ヤードさんは汲み取っていました。 あの優しげなショウさんの表情が脳裏にこびりついているせいで、いまいち殺す決心がつかないのです。 すると、スカイルさんが僕を後ろから暖かく抱き締めてくれて、無意識にあった震えは消えていきました。 『レイト…確かに俺たちは魔物を殺してはいるが、それは人間や、他の生物を傷つける奴らばかりだ。もし野放しにすれば、生態系を壊しちまう。だが俺たちは、討伐を正義とは言わない。平和な世界から外れてしまったものたちを生まれ返らせて、また世界に戻すのが俺たちの仕事だから。生まれ変わりの話は証明されてるからホントだぞ?だから、アイツも…』 暖かい腕が、声が、言葉が、心に染みました。ショウさんは、研究のしすぎで、人の道を外れてしまった。だから、哀れみの気持ちを持って、彼を葬る。 僕はついに決心しました。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |