[携帯モード] [URL送信]

短編
2
彼は一体この本にどんな感想を持っているのだろう

あの見開かれない目に小説はどう写っているのか

気になる
凄く気になる



彼が手に持っていた小説は、小さな失恋物語を描いていると思う
“小さい”そう思うのは、恋が始まっているのかわからないからだ
凄く仲の良かった異性の友達に恋人ができることに対して主人公は驚く程悲しい気持ちになる 、と言う物語だ
続きはしない、
悲しい気持ちで物語は終わる
この悲しみが恋心から来る物なのか、友達が離れてく淋しさから来る物なのかも描かれていない
でも、主人公は悲しい気持ちになる
だからこれは不幸の物語だ
友達に悲しい気持ちを抱いてしまったので、もう元の関係には戻れない
不幸で悲しい別れの物語


パタンッ


本を閉じる音で、彼が降りる駅についた事を知る
あっ
っと思った時には足はもう動いていて、彼の方に駆け寄っていた

「ねぇ、その本面白いよね」

階段の前の所で
グイ
っと腕を少し引っ張ると下を向いていた頭が持ち上がるようにこちらに振り向いた

その細い目はまつげが多く、何処となく華がある

「別れをテーマにした悲しい物語だけど、」

「テーマは出会いでしょ」

話し終わらないうちに彼が声をだした
以外に低いダミ声で驚いたが、耳の奥に響くいい声である

「え?」

「この、小説は終わりじゃない。
これはその先を読ませるための物語だよ。」

「先?」

まったく自分のもってる感想や考えと違って驚く

「そ、これから先主人公は友達に惚れてた事に気がつく
そんで、友達に告白する
または、友達に恋人ができたことで、自分にはなかなかできないことに焦りを覚えて一つ一つの出会いを恋愛に結びつけようと奮闘する」

「はぁ、」

「そんな、先を色々と連想させられる自分の物語だ」

「自分の物語?」

「そだよ、ラストがどうなるか自分で想像して決める
主人公の性格や感情を読み取って、これから先の主人公の出会いとその接し方が色々と想像させられる
なかなか面白い作りの本だ」

彼は眠いからページをめくるのが遅いのではなく、本をしっかりと読み込んでいたから遅かったのか

小説をただ読んでその時の感情や状況を理解するだけでなく、その先も読む

なかなか、いや、凄く面白い
こんな面白い本の読み方があったなんて!
自分も小説の先を読むことはできるのだろうか?

小説の先を面白く読むことができる自信はないけど、これから先の自分の行動なら読むことができる


まずは彼をお茶に誘うと思う



そして、多分
多分だけど、

近い未来
彼女と別れる



そして、


ーーーーーーーーーー
彼に告白する未来はまだ読めていない



[*BACK]

2/2ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!