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短編
1
電車でいつも見かける彼


茶色のセーターを少しダボっと着こなし
眠そうで、その目はいつも細められいる
身長は180の俺より少し低いくらいで髪は寝癖か何かで所々はねて、芸術的な髪型をしている

ぺしゃんこのスクールバックからはいつも小さな小説を取り出し、優先席の近くの、扉の横に背を傾けて小説を眺めている

でも、ページをめくるその速度が遅く
目は極限まで細いので読んでいるのか読んでいないのか判別できない

もしかしたら本を手に持って寝てるのかもしれない

そんな疑問が頭をよぎるほど目はショボショボだ

でも、数分に一度ページをめくり出すから寝てはいないんだと思う

あの目が見開かれることはあるのだろうか、
何かに驚いて瞳に何かを……誰かを写すことはあるのだろうか


小説のタイトルは俺の好きな作家の小説で、すごくマイナーなものだ
俺はその作家の全ての作品を買い揃えているが、どれも通販で購入している

妹は、「つまんない」と本をつっかえしてきて
友達は、「漢字が多い」と投げつけてきた
彼女は、「ほのぼのしてるね」と少し苦笑いのようにはにかんで渡してきて
先輩は、「何が言いたいのかわからん」と首を傾げながら机に置いた

さまざまな感想をもらったが、どれも気に入った感じはなかった

なかなかこの本の面白さを理解してくれる人はいない



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