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短編
1

頬に鈍い痛みが走って俺は倒れこんだ
口を切ったのか鉄の味が広がる
「キャッ」なんて可愛らしい悲鳴が聞こえた
目の前には男物の靴
その靴を足、腰、胸、と順にたどって行けば右手を握りしめている男が俺を睨んでいた

そう、俺は先輩に殴られたのだ




隣のクラスに可愛い女がいるとか
部活のマネージャーの胸がてかいとか
よく友達と話して騒いでた

当たり前のように俺は女が好きだと思っていた
男が女に惚れるのは本能的な物で、男を意識することはないと

だけど違った

尊敬する部活の先輩が胸のでかいマネージャーとキスしている所をみた

先輩より頭一個分位背の低いマネージャーにキスしようと首を下に思い切り伸ばしている首の形
うなじに少しかかる汗で濡れたのか水で濡らしたのかわからない少し束になって跳ねている髪
優しくマネージャーの腰に腕を回しているがもう片方は少し乱暴にマネージャーの後ろ髪を、頭をわしづかむように抑えている
肩まで伸びているマネージャーの髪の毛がぐしゃりと乱れ先輩の手を少し覆い隠し、その髪の毛の隙間から時折長く骨ばった指が覗く

何を想像するでもない
ただ、その光景に欲情した

俺もキスしたいとか
あんな彼女欲しいとか

そんなこと考える余裕もなかった


ゴクリ


生唾を飲み込みこむ
ハッと気がついて下を向くと右手が自分の欲情しきった物に軽く触れていた

無意識

先輩を見て欲情した罪悪感を隠そうと手で触れたのか、溜まった欲を自分で吐き出そうとして触れたのかはわからない

ただ、そのおかげで俺は我に返ってその場から離れたのは確かだ



家に返って少しあの光景を思い出してみて
そこで気がついた

俺は先輩の事しか覚えてない

マネージャーの手はどこにあった
先輩の首に回ってたか?
いや、先輩の首の形をしっかりと俺は覚えている
ならマネージャーの手は腕には無いはずだ

そう

あの長く太い首
髪から首をつたって滴る水滴
そして何より、あの髪の隙間から覗く指

どんどん先輩を思い出す

そして俺の逸物は欲情していく


俺は先輩に欲情していく

「ーーーはっー」

そっと自身に触れて

「ーっ。ーーーんーぁっー」

先輩の手を鮮明に思い出す

「ーーうぁっー」

欲がドロリと溢れ出た



自分の気持ちに気がついてから
俺はより一層先輩に懐いた

先輩はどんなに走り込みで疲れていても俺が呼ぶと

「よぉ、チビ」

挨拶を返してくれる
笑顔で、だ
息切れしながら必死に作る笑顔が1番俺は好きだった

だから毎回走り込みで疲れている所で挨拶をする
しまいには走り込んでいる最中にすら挨拶をした

先輩の金魚のフンと言われても気にしない
惚れた物はしょうがない
始めての恋心で俺は幸せだった


「ねぇ、邪魔するなら出てってくれない?」

マネージャー
こいつの存在を思い出すまでは

二年の俺と三年の先輩ではテスト期間が違い、俺は今テスト期間中だから部活が無く
先輩に挨拶する為だけに部活に顔を出している

まぁ、邪魔と言えば邪魔だろう
挙句走り込みの最中に挨拶するなど妨害行為も働いているからな

「そー、怒るなよ
校舎広いから迷子になってここにたどり着いたんだろ」

クシャリ

俺の頭を撫でながらありえない冗談を吐く先輩に

「もぉ、すぐそーやってー」

マネージャーがつっかかる

そこから2人で話し出して俺は置いてけぼりを食らった

同じ空間にいて、先輩の手は俺の頭の上においてあるままなのに幸せを感じることができない


しょせんこいつらは恋人の関係
彼氏と彼女

男と女の関係なのだ

先輩の笑い声が頭上から降ってくる
マネージャーの唇が少し拗ねたように尖る
化粧で無理やりてからせたその唇はキラリと輝きが太陽に反射してマネージャー自身が輝いて見えた

その唇で先輩とキスをした

そう思うと嫉妬するより先に羨ましいと思った
先輩とキスする資格が自分には無いとわかっているから嫉妬すらできない

「迷子になった可愛い後輩を校門まで送ってくださいよ」

おどけて言えばマネージャーは呆れつつも俺の申し出を二言で返し

そして俺は校門でマネージャーにキスをした

抵抗しようとしたのか口を開けたその隙間に舌をねじ込む
だがどう絡めて良いかわからずそのまま左右に動かす

「ーんっーー」

鼻からいきが抜けたような声を出しながらマネージャーが上手に舌を絡めて来た
ぴちゃぴちゃと唾液の混ざる音とぬるりと生暖かい感触がする

先輩とキスした唇
先輩の唇

そう思うと背中の腰のあたりがズンと重くなり疼いた

興奮する

あのキスの光景が蘇る

俺はそっと腰に腕を回して、もう片手で頭をつかんだ

マネージャーは俺の胸の服を両手でキツく握っているが
握るだけで抵抗しない

俺は今先輩と同じ事をしている
俺は今先輩になっている





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