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似た者同士。






【似た者同士】





「う゛お゛ぉい、口答えする暇あったら書類を持ってこいクソガキィ!!足りてねーのはおまえのとこだけだぞぉ」

静かな執務室にけたたましい声が響く。いつもなら此処らで物の一つや二つ飛んで来るのだが、今日も奴は居ない。少なくとも後二日は帰って来れないだろう……滅多に本部に顔を出さない男だから、いざ行くとなると超過密スケジュールになるのだ。それでも奴は足を運ぶ事を拒み、必要最低限ギリギリないしそれを下回る形で向こうが困り果てた所を漸く、といった所だ。だもんだから向こうも向こうで、ここぞとばかりに詰め掛ける。ルッスーリアはそんなボスを気遣い、オレに同行を提案したが――流石に組織の上のモンが揃って抜けるのも気が進まないし、帰って来た時の事を考えてオレは残る事にした。少しでも仕事を片付けて、あいつをゆっくり休ませてやりたい。――これは単なる自己満足だけれど。
一応信頼のおける部下を付けたし、肉も持たせた。外じゃ物を極端に口にしなくなるあいつが何かしら食べてくれているといいのだが。




「スクアーロ、めんどくせーけど持ってきてやったぜ」
「なら最初から提出しとけ」
「そーいうのは下っ端の仕事。王子には関係ねーんだよ、ししっ」

ノックも無く現れた者は先程の電話の相手、その人だ。嵐の守護者だからか本質か、大雑把過ぎて時折手を焼く。だから最近は良くフランを付けてフォローを任せているのだ。――言ったら絶対怒るだろうが。

「これが次の任務だ、フランを連れて行け」
「またかよ、ホントしつけー。……あ、そうそう。オカマがなんか怒ってたけど、なんで?」
「……てめーは知らなくていい」

「あっそ、んじゃバイビ」
「おう」

手短な会話を交わし、部屋から出て行くあいつの後ろ姿を眺め考える。
ルッスーリア、か……まあ奴が怒るのも当然だ。食事を口にしなかった事を怒られたのが昨夜。朝此処へ運ばれた飯をそのままに、昼に食事を運んできた時にもまた怒られた。で、夜もこんな調子だ――あの男が腹を立てるのも頷ける。だが、どうにもならないのだ。
何故ならオレの頭には、あいつ――XANXUSしか無いのだから。





「んだよ、まだ怒ってんのかよ」
「あらベルちゃん、おかえりなさい。……それで、どうだった?」

カツカツ靴底を鳴らしながら室内をぐるぐる歩き回るルッスーリアに声を掛ける。怒ってると言うより“心配”の方が圧倒的に多そうだ。
そんな彼からの命を受け、ベルフェゴールは偵察を兼ねて部屋へ赴いていた。見て来たのは手付かずの食事。――まだ彼は食べない。

「全然ダメ。あとあいつ目の下すげーよ、寝てないみたい」
「やっぱり……んもうっ、困った子達だわ!お説教したいくらいよ!!」
「子って歳じゃねーだろ。……は?達?」

「あら、ベルちゃんは知らないのね……ボスも同じなの、スクアーロと居ない時は全然食べないし眠らないの!だから一緒に行きなさいって言ったのに、全然伝わってないんだもの……まったく、呆れちゃうったら」
「何それ、新手のオカルト?信じらんねー」

暗殺部隊のボスともあろう人が?……いやいや、その前にあのアホのロン毛――じゃなかった(クソ、移った!)、スクアーロ相手に?
何これ、世紀末?色々ありえねーんだけど。


「気付いてないのは当人くらいよ。ああでもボスは多分自覚があるわね」
「もうほっときゃよくね?ニブザメはさー」
「そうよねぇ、付き合い切れないわ」



「――付き合えと、言った覚えはねえ」
「あら!」
「あっ!」








「……後はあいつのサイン待ち、か」

書類を纏めながらポツリと呟く。やれるだけやった。後はあいつが帰って来て、休んだ後にちょいちょいとサインをくれて判子を押してくれりゃあ終わりだ。二日分の任務の振り分けも終わった、……我ながら良く働いたものだ。目が書類ばかりを追っていたものだから、紙面以外を見るとチカチカする。きっとまた少し視力が落ちただろう。やれやれだな。

「XANXUS……」
「何だ」
「――っは!?う゛お゛っ、――げほっ、ごほっ……はあぁ!?」

愛しい男の名を紡ぐと、愛しい声音が鼓膜を震わせた。――声?
そう思った時にはもうオレの身体は振り返り、双眸は愛しいその男を映していた。あまりの事に思わず咳き込みながらも瞳は目敏く、まじまじとその顔を見詰める。――ああ、何日ぶりだ。相も変わらずイイ男。

「何だよそれは、噎せてんじゃねーよ」
「おまっ、なんで……」
「わかんねぇか」

驚きと混乱の中、開いた口にも気が回らないオレはただただ目の前の男を見詰めるばかり。瞬く度に一歩、また一歩と、距離を詰めるXANXUSの目の下には隈が見えた。――やっぱり眠ってなかったのか。
気付いたばかりのそれを指摘し様と口を開いた途端、唇に触れた奴の指先がそれを許さなかった。これから施されるであろう愛戯を期待して、意図せず吐息が零れた。向ける瞳にも熱がこもる。ああ、――嗚呼。


「わかんねぇのか聞いている」
「XANXUS……」
「何だ」




「会いたかっ――」

全てを呑み込むかの様な口付けに血脈は躍り、掌握された心の臓は痛い程に歓喜に奮えた。全身だけじゃなく、心も、魂さえも、この男が欲しいと湧き立った。キスの間に濡羽色の髪を掻き乱すのも、骨が軋む程の抱擁も、鼻腔を擽る馴れ親しんだこの香りも、その全てがどうしようもなく。
本当に、どうしようもなく。


「めちゃくちゃにしてやりてぇ」
「それはオレの台詞だろ」
「ダメかぁ?」


「はっ、出来るモンならやってみろ」
「寝かさねえからなぁ」
「嘘だろ、いつもてめーは先にくたばりやがる」
「今日はがんばる」
「ホントかよ」
「おう」

「じゃあ先に寝やがったら殺す――ベッドの上で、な」
「う゛お゛おおぉ……っ!!」
「“がんばる”んだろ?やってみろや」



「……自信なくなってきた」
「いつもだろ」
「まあ、……うん」

結局その日は、二人して堪えてたけど直ぐに眠ってしまった。
互いの腕の中で、身を寄せ合いながら。
それだけで酷く満たされた。







一人の時間が、何故だか退屈で。
退屈で、退屈で。

世界も霞んで見えてくる。




オレ達きっと、
『似た者同士』。

こいつの事が、だいすきです。


-END-





いい歳して何やってんスかね、このバカップルは。(笑)
スクはボスが頑張ってるからとメシも食わずに頑張り、ボスはスクが食べないとわかってる感じ。
離れて居ても、恋人の事を考えてるという話。ボスが早く帰って来た理由も同じです。

――2009.10.02.

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あきゅろす。
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