片羽フラクタル
5
ジャッカル「おい、ブン太!」
ブン太「待ってろよぃ、伊与!」
ジャッカルの静止を振り切り、単身で敵陣に飛び込んでいく。いくらブン太が騎士団の中でも上位に名を連ねるほどの強者であっても、流石に多勢に無勢。たった一人で行くなど自殺行為である。
ジャッカル「…くそっ!」
謙也「ジャッカル!ブン太と一緒やないんか?」
ジャッカル「ブン太は一人で飛び込んでいきやがった」
謙也「はぁ!?」
加勢に来た謙也がジャッカルの言葉に目を丸くした。敵がひしめく敵陣を見て軽く舌打ちをする。
謙也「何でそないなことを…」
ジャッカル「伊与がいたんだ」
謙也「…は?」
謙也の声が一段と低くなる。
普段は明るい謙也だが、怒ると普段のイメージと一転してとても恐ろしいことは騎士団の古参の中では有名な話だ。その声を聞いたジャッカルは背筋が粟立つのを感じた。
謙也「嘘やったら殺すで」
ジャッカル「う、嘘じゃねぇよ!確かに見たんだよ。敵の陣地に一人で立っている伊与の姿を!」
謙也「…もし、その話が本当なら」
謙也は一歩踏み出し剣を横凪ぎに振るった。衝撃波が敵を巻き込み吹っ飛ばしていく。
謙也「伊与は俺らの敵っちゅーことなんやで…!」
悔しげに、悲しげに吐き出された台詞。
ずっと捜していた。あの日、別れてからずっと。一生かけても必ず見つけ出すと誓った。それなのに、その少女は。
謙也「何でこうなるんや!!」
謙也の叫びに呼応するように剣が震えた。
そしてブン太と同じように我武者羅に敵陣へと駆けていく謙也を、ジャッカルは止めることすら出来なかった。
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