片羽フラクタル
3
伊与「…ブンちゃん…?」
風に靡く金色の髪を耳にかけ、伊与はふと顔を上げた。懐かしい声が聞こえた気がしたのだ。
そういえば、今戦っているのは王都エンティアの騎士団のはずだ。伊与が知っている限りではブン太は騎士団には入っていなかったはずだが、エンティアは伊与の故郷。知り合いがいてもおかしくはない。
伊与「…どうしてこうなっちゃったんだろうね」
反乱分子に伊与の父親と母親は暗殺され、伊与も命を狙われた。命からがら逃げたしたものの、エンティアの権力はその反乱分子の一味に掌握され、彼らの罪も闇に消された。公には伊与の両親は他国の刺客に殺害され、伊与も誘拐され行方不明ということになっていることを知ったのは、エンティアを去ってから一週間ほど経った後であった。
伊与「父様と母様を殺した人が、なんで国王になってるの…!」
憤慨した伊与は真実を告げようとエンティアを目指したが、次々と暗殺者が襲いかかってきて近づくことすら出来ない。そんなとき、零と出会った。
零「あれ、姫サンじゃん。行方不明って聞いてたけど、無事だったのか。良かった良かった」
伊与「零?」
まだエンティアが平和だったころ、エンティアの郷土料理を好んでいた零はよくエンティアを訪れており、その戦闘の腕前を買われて伊与の用心棒を努めたこともあり、二人は親しい仲であった。
事情を全て話すと、零は神妙な顔つきになり伊与を見つめた。
零「…それで、姫サンはどうしたいんだ?」
伊与「私は…」
大好きな両親の愛する国が好きだった。人々も優しく自然も豊かで幸せなエンティアを愛していた。
しかし、憎き侵略者にエンティアを乗っ取られ好き勝手にされるというのなら。
長い沈黙の後、伊与は決意した。
伊与「私はエンティアを滅ぼす」
きっとそれは修羅の道。多くの人から恨まれることになるだろう。それでも伊与はそう宣言した。一度言えば必ずそれを達成させる頑固さを知っている零は、それを聞いて制するでも宥めるでもなく。
零「おう」
ただ、頷くだけであった。
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