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片羽フラクタル
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毎日が幸せだった。笑顔が溢れていた。
王都エンティアは国王が代わるまでは戦争のない平和な国であった。王族の娘である伊与はいつも城を勝手に抜け出しては城のものを困らせていた。

ブン太「あっ、伊与!お前また抜け出してきたのかよ」
伊与「やっほー、ブンちゃん!」

伊与はブン太の親が営業しているスイーツ屋さんに入り浸っていた。最初は距離を置いていたブン太も、同じ甘党同士すぐに仲良くなり、今では伊与が来れば苦笑しながらも快く受け入れてくれるようになった。

ブン太「また謙也あたりに怒られるぞ」

騎士団に所属している謙也が伊与に対して恋心を抱いていることは分かっていた。ブン太もブン太で伊与のことを好いている気持ちはあるが、騎士団である謙也とただのスイーツ屋の息子であるブン太とでは身分の差がありすぎる。ブン太はこの恋心を内に秘めたまま、伊与の良き友達であろうと必死に努めていた。

伊与「良いもん。謙也ってば過保護なんだから」
ブン太「それが仕事だろぃ」
伊与「それに、私はブンちゃんのこと好きだもんね!」
ブン太「!」

それはきっと自分の思っている好きとは違う意味合いをもつことは分かっていた。それでも、恋い焦がれる相手に好きと言われて喜ばない男はいない。

伊与「ブンちゃん?」

ブン太は無意識の内に伊与を自らの腕の中に収めていた。平均よりも背の低い伊与はブン太の胸の辺りまでしかない。そのため、話すときは常に上目遣いであった。
小さい温もりに、ブン太は熱が顔に集まっていくのを感じた。

ブン太「…あっ、わ、悪ぃ!」

慌てて伊与から離れる。伊与はキョトンとブン太を見つめていた。そして、未だに顔に集まっている熱を発散させようとしているブン太の背中に駆け寄り、そのまま抱き着いた。

ブン太「うおっ!?」
伊与「ブンちゃん、ありがとう」
ブン太「え、えっ?何の話だよ?」
伊与「…ねぇ、もう一回してよ」
ブン太「へぇっ?」

自分でも随分間抜けな声が出たと思う。背中に張り付いていた伊与がくすくすと楽しそうに笑い、ブン太の前に回り込んだ。大きな瞳が潤み、心なしかその頬は朱を帯びていたようにも思える。
伊与は両腕を広げて、太陽のような笑顔を向けた。

伊与「ブンちゃん、大好き!」

それが、伊与の最後の笑顔だったような気がする。


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