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Came Back the Unusual
4
面倒極まりない。


そう心で呟き黎は深く溜息を吐いた。目の前で彼女の道を塞ぐ、何時何処でどういう経路で関わりを持ったのか身に覚えのない彼等に心底嫌気がさしていた。

黎がこの池袋に戻ってきたのはほんの数日前なのだから、その間に揉め事を起こしたのかと問われれば、あり得ないと答えられる。


静雄のような馬鹿力があるわけでも、露西亜寿司店に勤める外国人でもなければ、彼女は極普通の一般人なのだから。


巻き込まれた理由があるとすれば、いやそれは以前の出来事だけでなく今回の彼等の事も含め、確実に黒髪の彼の仕業である事は間違いない。



何故彼はそこまで自分に執着してくるのか。


不思議でたまらなく、再び溜息を吐けば下品な言葉が黎に降り注ぐ。



「あぁ??何溜息なんかついてんだよ!なめてんのかこの糞女!」

「お?つか、こいつ良い身体してんじゃね?」

「確かに、まぁ引き渡す前に少しぐらい味見させてもらってもいいんじゃね?」




なんて卑劣なのだろうか。


呆れた黎は彼女の腕を掴む男を睨み付けるわけでもなく、ただ感情のない瞳で見つめた。それは人によれば人形のようだと例える人もいれば、



「っ!!何見下してんだよ!!」



下に見ていると捉える者もいる。
振り上げられた拳に怯むわけでもなく、ただそれをじっと見ていると振り落とされる事なくその腕は停止した。



男の背後に突然現れたのは、存在そのものが漆黒とでも表現すればいいのだろうか。頭に身につけているヘルメット以外、全てが黒で纏われ、無意識に惹きつけられる何か。
人間の姿を模した何か、はたまた人間がその何かを模したのか、そのことは分からないが、しかし目が離せないことに変わりはなく、先程の下衆な輩が逃げていくことにも目をくれず、ただ耳に入ってきたのは『首無しライダー』と叫んだ声のみで、恐らくそれはこの、人のようで人でない何かを表した名なのだろう。



男達が去っても黎は『首無しライダー』を見つめ続けた。それに気がついた、ライダースーツからすると線の細い身体から女性であると思われるが、彼女は何処からともなく携帯電話を取り出して文字を打っていく。それを黎に見せれば”大丈夫か?”と、心配している時に使用する単語が綴られていた。




「あ、ども。大丈夫ですけど……」



だが、と冷静になった黎は止まりかけていた思考を動かし始める。



もし、仮にも襲われていたことが百歩譲って偶然だとしよう。しかし、漫画やアニメじゃないのだから、そんなグットタイミングでヒーローが現れるわけがない。そうなると誰か、襲われる事を知っていた誰かが助ける事を依頼した、という方が何かしっくりしてしまう。



これもか…



幸せが逃げると言われても、止まる事のない溜息。すべて仕組まれているのだと考えると自然と出てしまうのだから仕方ない。



「どうして助けたんですか?」



決して助けて貰ったことが嫌だったわけでもない。ただ、本当に疑問に、そして確信を得たかったのだ。




何故如何して、疑問は解決し、そして吸収しなければ自分を守る事が出来ない。
知りたい知らなければいけない、知らなければ恐ろしい。




脳内を駆け巡る思想を押さえ込むように冷静に、地にしっかりと足をつけて相手を見遣る。
黒い彼女はおもむろ携帯を取り出して手慣れたように打っていく。そして、その画面を黎に表示しようとしたその時だった。



黎の視界を奪う何か。真っ暗になる目の前に肩を震わせるも、すぐさま片足に力を入れて視界を奪うそれに一発打ち込むために上げたが、その瞬間に口元に覆われた布の様なそれの所為なのか、一気に力が抜けて意識を失った。



意識を手放す直前に微かに聞こえた、人を小馬鹿にした様な笑い方に憤りを覚えながら。












2015/01/05

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あきゅろす。
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