Came Back the Unusual
1
何も変わらない同じ事の繰り返しな毎日が嫌で非日常を求め、そして堕ちていく人間は少なくない。
それが悪いとは思わないし、つまらない日常に刺激を求めてしまうのは人間の本能で願望であることも理解している。
しかし、黎はそんな非日常を望む事はなく、死ぬまで欲する事はないだろう。たとえつまらない毎日であっても、それは彼女がいままで望んだものなのだから、自ら壊すことはしない。
彼女の周りでは、毎日不思議な出来事が起きていた。知り合いでもない人に声をかけられ、己の名前を言い当てられ、なんて事は普通であれば奇妙な事にも関わらず、彼女のまわりではそれは極普通に起きていた。
その根本的な原因は中学より顔見知りの同級生だという事が発覚するのに時間はほとんどいらなかった。
特に彼とまともな会話をしたわけではない。しかし、彼は何故か黎に執着し、何かと厄介事に巻き込もうとした。
「折原…」
いい加減にしてくれと、溜息を交えて告げた名前にそんな意思も含めるが、そんな彼女を楽しそうに見る彼には些か興味のない事だった。
産まれも育ちも池袋が故に、其処を離れるなんて選択肢を元々持ち合わせていなかった彼女だが、中学だけならず、高校も同じ折原から逃げたいが為に生まれたその選択肢を選ぶのに迷いなど存在するはずもなく。
地方で就職してしまおう。そうすれば彼から離れられる、現実離れした世界から逃げられる。
喜びで満たされた胸の内を、高校三年生の冬、進路調査の紙に文字として表した。
それから5年と半年。
さぁ横断歩道を渡ろうとした瞬間、腕を掴まれ強い力で引かれた黎は訳が分からず無意識のうちに足を動かした。
顔を上げて視界に映った華奢な背中、黒髪にファー付きのフード。
「いざ、や」
「いーーざーーやーーくーーんーーよぉー??」
背後から聞こえてくる声に肩を揺らせば、走りながら振り返り飛んできた自販機を目にした瞬間に感じた。
あー非日常にまた戻ってきてしまった、と
自販機を避ける為か、それとも別の理由か、折原臨也は急に立ち止まり黎の腕を引き寄せて腕の中に閉じ込める。耳元でくすり、と笑い声が聞こえたかもしれない。
しかし黎にとって、抱き締められたことよりも、耳元に吐息がかかっていることよりも、大切なことがあり、それによって肩を震わせて、照れたのかと思い込んだ臨也の腹部に一発いれるまでにそう時間はかからなかった。
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