ブリキ少年と死神と魔女の少女
第1話:【その方向では】通過地点は遠退きます:2−1
待っていた青年が来たので、スマホで時刻を確認する。
ふと視線を戻せばぴょん、といつも通り、わけの分からない方向に跳ねる毛先が見えた。
ブロンドに近いような、灰色に近い配色の髪色。
少しつり目な碧色の瞳に、スッと通った鼻先。
形の良い薄い唇。
…だけどな、髪が…。
髪型を除けば顔は俗に言うイケメンだ。
顔は。
俺と同じ黒い学ランを着て、片手に朝食らしきパンを持っている。
ああ、今日はメロンパンにするのか、なんて考えを頭に浮かべながら足を進める。
顔と中身が伴わないとはこういうことだろう。
朝からお騒がせな奴だ。
今度同じ手口を使ってやる。
「ははっ酷いなー。しけた面してたから、明るくしてやろうと思ったのに」
「ありがとよ。今度倍返しでプレゼントするな」
「お、おおおお俺謝ったぞ!!!」
無表情で言葉を発した俺に、「ごめんって!ご、め、ん、な、さ、い!!!」とふるふると肩を震わせながら喚き繰り返す。
正直言って邪魔くさい。
苛々する。
こんなときは相手を殴ってみることにしよう。
おお、何か俺野蛮人だ。
「いつ、溢希くん酷ぃよ…ボクとっても痛ぁい…ぐすっ」
「苛々したからもう一度殴ってみてもいいか。そうすれば食わなくても、解消法が分かるかもしれない」
「それ決定されてるよね、え?!溢希、それは俗に言う『ウザい』って感覚だと思う!あと解消出来るってのはマヤカシだ!」
まだきゃーきゃーと喚いている奴は放っておくことにする。
そうか、これが「ウザい」か。
正式にはうざったいと言うらしいな。
若者言葉は感情と結びつけるには難しいので、辞書を読んで正しい言葉と感情を学ぶことにしている。
おかげで漢字と意味だけはバッチリだ。
その代わり、常識的なことが分からないので現国は赤点ギリギリだったりする。
まあとりあえず、俺の座右の銘である【一日一情取得】は出来た気がする。
ちゃんと分かったわけではないだろうけれど。
「前々から思ってたけどよ、絶対オマエ、俺で遊んでるだけだろ。そのオーバーリアクションも演技だろ」
じゃなければただのドMか、相当の馬鹿だ。
最も、コイツがドMだとか馬鹿だとか、絶対にあり得ない単語だから考えるまでもない。
遊んでいるのだろう。
それはコイツの趣味みたいなもんだし。
「さーねー」
俺の問に飄々とした態度で返事をする。
また腹が立ったので、少し軽めに、本当に軽めにお綺麗な額に向けてデコピンを決めた。
「うわ、ちょ、もー…イテテ…ところで溢希さ、」
「ん?」
「さっきのニュース、聞いた?」
食べかけのメロンパンを口に入れ、額をさすりながら唐突に俺に質問を投げ掛けた。
ニュース、ニュースねぇ…大方、さっきの行方不明とかのやつだろう。
コイツがこんな質問をする理由は分かっている。
じゃないと俺とコイツは利害が一致していない。
一致したからこそ、こうやって一日を過ごす、“友人”らしきことをしているのだ。
利害以外のその他の感情は、俺には難しくて分からない。
あと何回食えば、人並みの感情を知れるのだろう。
実は俺、友情とか友人ってやつもよく分からない。
「ああ、さっき見た。主犯はパンドラ、だろ?」
「セイカイ。さすが溢希くん」
ニヤリ、大きく口を歪ませて笑う。
コイツの愉快犯チックな所は、これから先も治ることがないような気がする。
いや、気じゃなくて絶対治らない。
断言しよう。
これから先もコイツは、俺をからかうし、虚言を吐いて騙すのだろう。
変わらない、きっと。
俺の憎悪と同じように。
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