ブリキ少年と死神と魔女の少女 :1−2 遡ればアレは、9年も前の話。 生きているという定義が感情を持つことならば、俺こと春野溢希(ハルノ イツキ)が17年生きている中で、半分にも満たない期間、それが俺の本当の意味での生だった。 そう考えると9年は確実に死んでいる。 今だって、俺が手に入れた感情は感情だと言い切れない。 感情を持つことの出来る生き物が、自然と感情を取得すると言うのなら、これは自発的に手に入れたモノではないのだ。 死神を殺して、体内に取り入れただけだから。 死神殺しという時点で他人には言いにくい事情だ。 これこそ「恥ずかしい」。 心臓を取るなんて荒技、さっさと辞めたいけれどそうもいかない。 普通は俺なんて人間では死なない、【死神】を消滅させてしまっているんだ。 奴等の…パンドラのブラックリストに載っているに違いない。 パンドラとは、平たく言えば犯罪者集団の名前だ。 聞こえは悪いけれどざっくり言えばそうなのだろう。 ほぼ俺の独断だが。 先ほどのニュースで聞こえた通り、行方不明者を出したのは『パンドラ』。 だけれど、死神という単語が出てきたことには共感出来ない。 何故なら、パンドラという組織には死神という種族が大半を占めているから。 必然的に手を下すのも死神、ということになるのだ。 あのとき俺が初めて(多分あれが初めてだ)出会った死神は、眼帯にパンドラの象徴を付けていた。 一年も経たない頃、何故かパンドラに遭遇し、その後落としていったシンボルをじーさん達に見せた。 するとあの人の口から出たのが『パンドラ』という言葉だった。 そこから俺はパンドラを追うようになるのだが、何故“死神の心臓を食べる”という行為に走ったのかは思い出せない。 覚えていることと言えば、誰かの「殺せ」という言葉と、「食ってしまえ、奪えばいい」と囁き掛ける甘さと、紅蓮に染まる俺の手だった。 異例だということは分かっている。 ただの【人間】が【死神】を殺すことも、殺すための術を持っていること自体が可笑しいのだと。 だから分からない。 俺は一体ナンダ? 人間か? 奴等と同じような死神か? それとも悪魔か? だが悪魔にはそんなこと、出来るはずがない。 考え込んで分からなくなって、少し、息を吐く。 どうせ分かっている。 瞼を閉じたって浮かぶモノはあの悪夢のような情景と、激しい憎悪だ。 鎌の柄を持ってゆっくりと俺に近づき、眼帯をつけていない瞳(め)を銀に光らせる。 そうして後退する俺に、奴は言う。 「次はオマ、」 「うわぁああああぁああっっおまっなんちゅーことしてくれてんだよボケぇええええええええええええっ」 「っイテェエエエエエエエ!!!!!!」 耳元で聞こえたモノローグに思わず飛び退いて、語っていた奴の頭に、握りこぶしを落とす。 すると奴は痛さから喚いた。 はぁ、ビビった。 いきなり脚色しだすから、俺の記憶がただのホラーになるところだったわ。 さっきのアレ、この間地上放送してたホラー映画の台詞にそっくりだった。 なんて悪質な。 外していたイヤホンをもう一度着け、俺が殴ったことで頭を抑えている、同じ制服を着た男に声を掛けた。 back next [戻る] |