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ブリキ少年と死神と魔女の少女
第1話:【その方向では】まだ通過地点は見えないでしょう:1−1



とん、と見知らぬ誰かの肩と自分の肩があたった。


ビルの液晶パネルから零れる、昼を告げるニュースキャスターの声。
ざわざわと人混みで賑わうビルの隙間。
引っ切りなしに信号が変わる交差点。
慣れてしまった光景が鬱陶しく感じられて、制服のズボンのポケットに突っ込んでいた音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンを耳に掛けた。

スイッチを入れて、すぐに作り出される世界。
それだけが今の俺には心地よかった。


このところ、苛々しているような自覚はある。
理由は知らないが、とりあえず苛々している状態だ。
「苛々」という表現を使う感覚?が、どんなモノなのかは初めの頃に知ったが、解消法だけは未だに手に入れることが出来ない。
一体何を食えばいいのだろう。ああ、もしかしたら、まだ“手に入れるのには早すぎる段階”というヤツか。
というよりもアレだ、俺の増えてきた感情と思い出してきた少ない昔の記憶などを照らし合わせてみると、思うことがある。
もしかして俺の感情は、「シシュンキ」というヤツにペースを合わせてるんじゃないのか?

す、少し待て。
その前に俺は「ハンコウキ」と言うヤツもよく分からない。
イライラしてヤツ当たってしまうと、昔読んだとある本では書いてあったが、まさか


──────これは「ハンコウキ」というヤツに近い現象か?


それだけはヤメテクレ。
俺の歳で第一次ハンコウキなど、恥ずかしいったらありゃしない。
いや、そもそも俺には「シュウチシン」と言うモノ自体がまだ備わっていないわけなのだが、「プライド」というモノを少し理解したところなので、男としての威厳は保ちたい。
無理そうな気もするけれど。


深呼吸をする容量で、深めに息を吸って溜息を吐く。
これまた何かの本で見たが、溜息を吐くと「シアワセ」が逃げるらしい。
「シアワセ」という感覚も分からない俺には、関係ない話だが、時々気になることがある。
ならどうすれば「シアワセ」は手に入るんだ?
食って手に入れられるモノでは無いのだろう?
問うても誰も答えないのを知っているので、自問して終わり。
何故ならばそれは人それぞれで、答えがないから。
感情や感覚というモノは決まっていないのだと学んだので、それ以来、定義やきっかけを聞いて終わりにしている。

食ったら分かる。
俺の、欲するモノが。
でもきっと、本当の意味では理解出来ない。
他人の心臓から貰ったところで、どうやったってそれは理性的で、本当の意味で痛感なんて出来ないだろうから。

何と無く理解はしている。
だけど俺には、他の手段が存在しない。



《 次のニュースです。先日から10人の“人間”が行方不明になっています。行方不明者は全員、その前日に予定が入っていなかったことから… 》



イヤホン越しからでも分かったそれ。
イヤホンを外して、液晶パネルから聞こえた話題に思わず顔をあげ、じっと観察を始めた。
へぇ、10人の人間ねぇ…



《 それは奇妙ですねぇ 》

《 また“死神”の仕業でしょうか》



眉を顰めて喋るニュースキャスターの言葉を嘲笑した。
“死神”が普通の“人間”を隠すわけがない。
そんな無利益なこと、しないだろうよ。
第一、


「死神じゃねぇ。【パンドラ】だ」


殺気を込めて、低い声で言い放つ。
画面に向かって何言ってんだかって思う。
だけど仕方が無い。
事実であり、パンドラという組織を嫌っている人間からすれば、こんなニュース「腹立たしい」以外の何物でもない。



《 追加の情報です。たった今、行方不明者の一部が焼死体で発見され… 》



「焼死体」、そのフレーズに目を細める。
僅かながらの記憶が呼び起こされる、懐かしい。
それはアイツらがよく使っていた手段ではないか。
瞼の裏に焼きつく、酷く美しくて悪質なそれ。
あの夜の日俺は全てを無くし、そしてある組織を追うようになった。



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