突然!?
3
顔が良いと半泣きでも綺麗だから腹が立つな。
慰める、フォローする、などといった発想はなく、ぼんやりとそんなことん考える寿だった。
「オレ、自己紹介ちゃんとしたのに! 名前訊いてきたのも寿君だったのにぃっ!! ていうか疲れるとか何とか言ってるし!! 何より、こいつとの扱いの差が酷いーっ!!」
「あー、そうでしたっけ」
数日前の自分を思い出す。
疲れるというのも、浅日と扱いが違うというのも紛れもない真実なので無視をする。
確かに名前を訊いたことには訊いたのだが、そのときの柳平があんまりにも喜んでいたために、退いてしまったのだ。
「どうしてずっと名字でしか呼んでくれないのかって気になってたのにー」
「あー、はい。名前で呼んだら負けだと思って」
「何で!?」
「いえ、何となく」
「酷いっ!!」
「そう言えば、何で母さんのメアドなんか訊いたんですか」
「だって寿君が教えてくれなかったんだもんー」
「だからって人の母親のメアドを訊くな!」
「だってぇー」
しくしくと泣き真似をする柳平。
仕方ないので、よしよしと頭を撫でてやる。
このまま放置しておくと、ずっと泣きじゃくるので余計に面倒だということを、この数日で学習した。
決して、柳平に対して悪意がある訳ではない。だが、どうしてか素直に甘やかすことができない。こちらが少しでも妥協してしまえば、そこから限界までのし上がって来そうな雰囲気があるのだ。
本気で話そうと思えば思うほど疲れてしまう。
寿は溜息を吐いた。
柳平は面倒な人間だ。
自分を好きだと言って他の人間を切り捨て、嫉妬なんて気にもせずにくっついてくる。
話しかけて来たかと思えばしょうもない内容で、小さなことで怒ったり泣き真似したり、喜んだり笑ったりする。
本当に、面倒だった。
だが、柳平を心から拒否しようという気持ちにはならない。
そんな自分に呆れた。
柳平との出会いが自分の何を変えるのか、あるいは既に変わっているのか。
全く分からない。
しかし、彼と出会ってから、溜息を吐く回数と共に笑う回数が増えているのは確かだった。
――正直、柳平先輩とどうこうってのは、まだ考えられない。
好かれるなら女の子に好かれたいし。
けど、先輩といて「楽しい」って思ってる自分もいる訳で。
こんなに五月蠅…いや、ウッザイのにね。
だから、名前で呼ぶなんて考えたくもない。
でも、この距離を縮められるっていうなら縮めて見せてよ。
応援はしてあげないけどね――?
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