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突然!?
3
――気を失った先で見たのは、
あの日の記憶で。
土砂降りの雨と、
そして――………




















柳平は目を覚ます。

「…?」

はっきりしない頭で今までのことを思い出した。
自分が女子から制裁を受けたところまでは覚えている。だがそれ以降の記憶がない。
自分の力で家へ帰ることができたとは思わなかった。
この部屋の匂いも覚えがないものだ。自分の部屋でないのは確かである。


ここは何処だろう?


そこまで考えたところで、


「あっ、起きました?」

「―――ぅえっ!?」


寿の顔のドアップ。
柳平を覗き込んでいた。

柳平は何度も目を瞬かせる。今の状況を理解しようと、必死で頭を働かせた。

寿が拗ねたように口を尖らせる。

「そんなに驚かれると、さすがにへこみますから」

「いやっ、その、ごめん。今…、え、なに? 何がどうなってるの? どうして家木君がいるの? そもそもここは何処?」

「取り敢えず落ち着きましょう」

幾度か深く呼吸をし、冷静さを取り戻す。
改めて周りを見渡してみたが、やはりそこは記憶にない部屋だった。

「ここはおれの部屋です。貴方のことはタク―おれの親友なんですけど―そいつが貴方のことを運びました。今は下で夕飯作りを手伝ってます」

「君が助けてくれたの!?」

自分の惚れた相手が自分を助けてくれた。
嬉しくないはずがない。
期待に顔を輝かせて訊く柳平。
寿の台詞から察すると、浅日が自分を助けたと考えた方が妥当なのだが、その発想はないらしい。


「いえ、そういう訳でもないですけど…」

彼女達が去った後に回収しただけだった。

「ちぇー、助けてよ」

「無茶言わないでください…」

寿の顔が真っ青になる。
傍から見ていても相当悲惨な光景だったのだろうと察し、それ以上は何も言わなかった。


「…ところで、その、本気――なんですか?」

「――? 何が?」

困ったよな表情で唐突に質問してくる寿に、柳平は首を傾げる。

「あの、ほら、おれと付き合いたい、とか、何とか…」

「うん、本気だよ」

真顔で答えた。
今度は寿が目を瞬かせる番だった。

「どうしてですか? 分かってると思いますけど、おれ、男ですよ?」

「ちゃんと分かってるよ。本気じゃなかったら、男に好きだなんて言わない、絶対」

死んでも言わない、と強調する。
自他共に認める女好き。
男を口説くなど、本来は鳥肌ものだった。

「…そもそも、どうして貴方はおれのことを知ってたんですか? 何処かで会ったことありました?」

こんなに目立つ人間と1回でも会話していたら覚えていそうなものだが、寿の記憶には全く残っていない。

柳平は1度、目を伏せて、すぐに寿を見詰める。

一瞬寂しげに見えたのだが、気のせいだったようだ。
そう考え直させるほど、柳平の顔は明るく輝いていた。

「そこは秘密ってことで!!」

「へ?」

「いやっ、だって男はちょっとミステリアスな方が格好良くない? 謎に満ちててクールで寡黙で…って惚れそうじゃない?」

「惚れません」

「えっ!? 嘘っ!?」

「…少なくとも、それって貴方のことではないですよね」

「何で!?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみてください。…そもそも、貴方は本当に柳平先輩なんですか? 柳平先輩はうざいほど女にモテるって聞いてですけど」

今の彼はモテ男の姿など片鱗もない。
妙な子どもっぽさがある大学生だ。
ただ、見た目が良いのは動かない事実なので、中身が余計残念なことになっている。

「酷いなっ! モテてたよ!? そりゃもうメチャメチャモテてたよ!! あ、でも、家木君に出会ってからはちょっと、自分のキャラを見失ってるかも?」

「原因はおれ!?」


はぁ、と溜息を一つ漏らす寿。

「どうせなら、モテてた柳平先輩と知り合いたかったですよ」

「でもこれが本来のオレから」

見詰めた瞳には、寂しげな色が確かに映っていた。

「今のオレが、嘘偽りない状態のオレ。だから、家木君には『この』オレを見て欲しい。全然モテそうにないオレ。今はまだ、戸惑っているだろうけど、これから、格好良くないオレのことも、見てくれない?」

真っ直ぐ自分を射抜く目。

「オレだって、男の子の君に惚れてるって気付いたとき、すごくびっくりした。そりゃもう、ものすごくびっくりしたよ。落ち着くまで1ヶ月もかかった。だから、君もゆっくりで良い」

「…じゃあ、まずはお友達からってことで」

「ありがとう」

困ったように、だが優しく笑う寿。
それを見て、嬉しそうに笑った柳平。



そして、ふと気付く。



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あきゅろす。
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