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突然!?
3

寿を追って、浅日もまた2階へと上がった。尊と柳平、そして母の3名はその場に残されてしまった。


「やぁねぇ、たもっちゃんたら。やきもちかしら?」

「そうですかね? そうだったら、オレにもちょっとは望みがあるのかなぁ」

「どうかしらねぇ」


のんびりと母は返事をする。その様子に、柳平は肩を竦め、台所に置かれているチョコレートの山に目を見遣った。


「このチョコは一体どうしたの?」

「俺と宅朗さんがもらったチョコです。毎年、宅朗さんとうちの家族で消化してるんですよ」

「そっか、寿君がもらったものじゃないんだ、良かった」


うちの兄貴は1個として、血のつながらない異性からもらったことはない、とは言わなかった。寿宛てのチョコレートが1つもないことに本気で安堵してるらしい柳平を見て、兄の名誉のために黙っておくことを決めた尊だった。


「ところで、何で言わなかったんですか。チョコは押しつけられたものだったって」

「――っ! 見てたの?」

「あそこは最寄り駅だし、あんな往来であんなやり取りしてたら、そりゃ目立ちますよ」

「そっか…、そうだよね」


柳平は苦笑して頭を掻いた。


「あの子、オレの大学の友達だったんだよね。今まで、そんなそぶりを見せたこと、一回もなかったから、オレも気付かなくって。オレが最近になって色んな女の人と縁を切って、一人の男の子に惚れこんでるのを見て、今言わなきゃもう一生言えないって思ったんだって。遊んでばかりいるオレじゃなくて、誰か一人と真剣に向かっていくオレに。自分に望みがないのはわかってるけど、これだけは受け取って欲しいって言われたら、つき返せなくて」


まるで自分を見ているみたいだったんだ、と柳平は続ける。


「でも、後でちゃんときっぱりお断りするよ。けじめだからね」


何処となく、痛みを伴った笑顔で締めくくった。


「なんか、柳平先輩って、思ってたのと違う雰囲気の人ですね」


寿の口から聞く柳平は、深くものを考えずに行動に移す人で、いちいち小うるさい人だった。何をしてもしなくても寿に付きまとい、うざい以外の言語で表現するのが難しい、子どものような人だ、というように説明も受けていた。しかし、今、目の前にいる柳平は静かで落ち着いた、『大人』の男だった。女性のことを考え、やみくもに全てを突っぱねることはなく、かと言って期待を持たせることもなく、分別も持っている。未だ中学生という身分である尊から見ると、それは憧れるには十分なほど立派な人間だった。


「オレのこと、知っているの? 尊君とまともに話したのは今日が初めてだよね?」

「兄から何度か、話は聞いています」

「ほんと!? 寿君が!? オレのことを!? わーっ! 嬉しいなぁ!! 寿君ーーーっ!!」


尊の言葉を受け、柳平はぱっと顔をきらめかせると、両手にチョコレートの箱を持ったまま2階へと駆け上がって行った。左手は先ほど女性から受け取っていた箱と同じ包装のもので、もう1つは手作り感のある、しかし綺麗に包装されたハート型の箱だった。

先ほどまでの落ち着きを一瞬で脱ぎ捨てて、柳平は去って行った。


「なんだったんだ?」


尊は疑問符を浮かべながら首を傾げる。母は後ろでくすくすと笑い声をもらしていた。


「あっきー君はね、たもっちゃんの関わるときだけ、普段と変わった明るい子になっちゃうのよねー」


母はその豹変の差をよく知っているようだった。

尊は初めて見る光景に戸惑っていたというのに。

2階から散々騒いだ音が聞こえ、仲直りをしたらしい3人が姿を現したのは、夕飯時になってからのことだった。



















―――兄貴があの人のこと、嫌いになり切れない理由、分かった気がするよ。
っていうか、普通に良い人じゃん。
普通に格好良い人じゃん。

あ、兄貴は格好良いところは見たことないんだっけ。

じゃあ、俺の方がよく知ってるってことになるのかな。
ちょっと、嬉しい。

俺の方がよく知ってる、そのはずなのに。
俺の方が距離を感じる。

それが少し寂しく感じるのは、どうしてなんだろう………?



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