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突然!?
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前方から見覚えのある人間が歩いて来る。



銀世界を歩く姿は流れる汗さえ美しく魅せ、見る者全てを惹きつける、1枚の絵画のようである――



――学内の女子はそう評価をするのかもしれないな、と寿は白い目でその人間を見た。


「何してるんですか、柳平先輩」

「あ、寿君! 初めてだよね、こんな時間にこんな場所で会うなんて!」


目を細めて笑われる。
しかし和めるような事態ではない。
ここで爽やかに笑う余裕があるということは即ち、柳平もまた寿と同じミスを犯している可能性が高い。


「柳平先輩、ケータイの電源って入ってますか?」

「うん、入ってるよ」

「着信にはすぐ気付ける状態でした?」

「うん、メールでも気付いたはず――――…え!? もしかして寿君、オレに電話してくれたの!? 全然分からなかった! 折角君が電話してくれたというのに全く感知しなかったなんて、オレの耳は故障してたのか!? 一体いつ着信を――――あれ? ない?」


慌てて自分のケータイを開き、確認する柳平。
不思議そうに首を傾げる彼だったが、寿は至って落ち着いた状態で首肯する。


「そうでしょうね、おれはたった今、ケータイの電源入れたばかりなんで」

「え、じゃあ、どうして」


自分と同じように、友人からの連絡を受け取れない状況下にあったせいで休講を知らなかったのかどうかを確認したのだ。
だが、柳平はいつでも連絡を受け取ることのできる状況にあった。
それでも恐らく、誰からも連絡は来ていなかった。そのために大学まで来てしまったようだ。

寿は気付かなかったとは言え、友人――浅日に連絡を入れられていた。
柳平にはそれがなかった。
これはつまり、浅日から友人と思われていないということの他に、柳平が誰からも友人と思われていない可能性が全くないとは言い切れないことを示している。

思い返してみると、柳平は寿に告白してから、ことあるごとに寿のところへ寄って来た。寄って来る直前は常に1人で、誰かと一緒にいるところを見た記憶がない。
告白する前は女性を侍らせていたが、精算したらしい現在では、以前のように囲まれていることがなかった。



急に心配になって来た。



全てを断ち切り、その上で自分へ懸けている。それなのに自分は、柳平を受け入れていない。
柳平の行動が報われていない状態にある。
それは自分のせいなのだ。

既に友人が少ないのに、自分までもが関わりを断ってしまえば、彼は完全に1人になる。



では自分は、彼を受け入れなくてはならないのではないだろうか。



――結論は出た。
それは恋情ではなく、同情だった。


「タク、これからは柳平先輩に優しくしよう」

『は?』

「じゃ、電話切るわ」

『お、おう』


ケータイを閉じ、ポケットに入れる。
柳平は眉間に皺を寄せていた。


「今の、浅日?」

「はい、そうですけど、どうかしました?」

「オレには電話してくれないのに、浅日には電話するの!? オレへの愛を誓うならあいつじゃなくてオレにして! まず、あいつは何で大学に来てないの!? 風邪か! 様ぁ見ろ!!」

「そのことなんですけど、柳平先輩はどうやって大学に来たんですか? あと、愛は誓ってないです」


そもそも柳平の電話番号はもちろん、メールアドレスも、ケータイに登録されていないことについては触れないでおいた。
意識的ではあるが、都合の悪いことは耳に入れないようにしている。


「え? あぁ、今日は徒歩だよ」


寿より先に、自分にとって都合の悪いことを受け付けない便利な耳を手に入れていた柳平は、愛に関する寿の否定は聞いていなかった。


「………徒歩?」


柳平の言葉をオウム返しに尋ねる。


「徒歩」


柳平は首肯した。


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