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突然!?
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出会いのことを忘れられていることは悲しかったが、出会ったときに赤い手形をつけていたみっともない自分の姿を思い出されるのはもっと悲しかった。
寿に呆れられたくはないのだ。


そこで苦肉の策ながら、見事な活劇を話してみせたのだ。話している間、寿が口を挟むことは一度もなかったのだが、目だけはひたすら遠くを見ていた。


「暇潰しのつもりだったらもっとまともな話をしてくださいよ! おれは貴方がどんな話をしても黙って聞くつもりではいましたけどね! どうせ昔のことを思い出すんだったら嘘の話じゃなくて本当の話を聞いての方が良かったです!! 真っ赤な手形をつけた貴方のことを思い出したおれが貴方に呆れるとでも思ったんですか!? そんなことを考えてたって言うなら、おれを見くびっていた貴方に呆れますよ!!」

「え、それって…」


柳平はぱくぱくと口を開閉させた。

美化された話の一部をヒントとして、寿は柳平の言う出会いの日の出来事を性格に思い出した。

当時の寿の言葉通り、客に傘とタオルを渡したのはあれが最初で最後だった。
アルバイトを始めたときから常に、店員と客との一線を越えることのないよう心がけてきた。

それを越えたのは柳平のときのみであった。


あまりにも柳平が寂しげだったから。


少しばかりのお節介を焼きたくなったのだ。

コンビニで会った柳平は濡れていたために容貌が寿の知っているものと変わっており、その上に大雨と手形のせいで気分も底辺を漂っていたために表情までもが異なっていた。

だから寿は気付くことができなかったのだ。

それが柳平だと分かったことによる恥ずかしさが、柳平が誤魔化そうとしたことによる怒りと相俟って、このような爆発を起こしてしまったのである。


寿に告白をしてから、幾度となく寿を怒らせてきた柳平だったが、ここまで全力で怒った姿を見るのは初めてだった。


「こんなにキレてる兄貴を見たの、小学以来かも」


紺の傘を差し、橙の傘を腕にかけた学生服の少年が2人の前に立っていた。
その姿を視認し、寿は勢いよく立ち上がる。


「迎えに来てくれてありがとう、尊。さあ、さっさと帰ろう」

「う、うん。あ、傘…」


寿はメールで、何処のスーパーにいるから傘を頼む、としか記していなかった。柳平がいることは、母から聞くだろうと考えていたのだ。
だが尊は、家に着くなり兄の分の傘だけを持ってすぐに家を出てしまったため、柳平の存在を知らなかった。

仕方ないので自分と寿とで1本の傘に入るか、と橙の傘を柳平に渡そうとする。


「その人のことはいいから、帰ろう」


しかし、止められた。


「大丈夫、濡れるのも構わないで道を歩いて行ける人だから」

「え、ちょ、兄貴?」

「ま、待ってよ、寿君ー!?」


制止の声も聞かず歩き出してしまった兄の後ろを、戸惑いながらついて歩いて行く。

柳平はすぐに立ち上がって追いかけようとした。追いかけたかったのだが、


「うう…足、痛い………」


足が痺れてしまったせいで動けなかった。

家木宅へ買い物袋を届けに行き、風呂に入れ夕飯を食べろとぶっきらぼうながらも寿に世話をされるまで、大雨は嫌いだと呪文のように唱えていた。





















――兄貴ってたまに、母さん以上によく分かんなくなる。

兄貴が置いてけぼりにした男に対して、何でか知らないけど凄く怒ってたのはよく分かった。
だから兄貴に、アイツの買い物袋を持って来なくて良かったのか、アイツに盗られるかもよって言ったんだ。
でも、あの人はちゃんと届けてくれるよって答えられた。
顔も見たくないってくらいの勢いでキレてたってのに、アイツが届けに来てもいいのかよって言っても、笑うだけだった。
それで、家に帰ったら風呂の用意までしてた。
自分のじゃ小さいからって、父さんから服も借りてた。

アイツが嫌いなんじゃないのって訊いても、さあねなんて言うしさ。

本当、兄貴って、何を考えてるのか全然分かんない――


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あきゅろす。
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