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突然!?
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微笑して見せたが、目を逸らされた。


「いや、本気ではあったんだけど」

「おれの謝罪を返せ!」

「はは…ごめん」


やはり力ない笑顔を返されるだけだった。



やりにくいとはこのことである。



寿としてはいっそ、「いいじゃない、いつかはキスするんだもの! あ、もしかしてスーパーの前っていうのが嫌だった!? やっぱり初めてのキスはもっとロマンチックな場所が良かったのかな? 寿君ったら乙女なんだから! となると星空の下が理想なのかな。むしろ海にでも行っちゃう!?」くらいの返しをされた方が楽だった。そうしたら問答無用で全力の拒否をできる。

そのやり取りを望んでいる自分に嫌気が差したが、静か過ぎて気持ち悪い今の柳平よりは良いのだと自身を納得させる。


「キスはしないから、手、繋いでくれないかな…? 他は何もしないから」

「………繋ぐだけなら、いいですよ」


差し出された手を緩く握った。
悪天候のせいか、スーパーに出入りする人は少ない。

指を絡めている訳でもないので、誤解をする人もいないだろう。

前向きに考えた。


「やっぱり、思った通りだ。君といると、雨の日でも安心できる…。今までの誰よりも、だ」

「今までの?」

「こういう天気の日はいつも女の子のところに行ってたんだけど――って、痛たたた! 手、痛いよ、寿君!?」

「…あ、すみません」

「ど、どうしたの?」

「………いや、何でもないです」

「そう?」

「はい」

「本当に?」

「ええ」

「………」

「………」


沈黙が続いた。会話を無理やり終わらせたのは寿だったが、気まずいものがあった。

携帯電話を確認してみるが、返信はない。

弟の尊は駅前の塾に通っているため、家に帰るまでは相当な距離がある。一度帰宅して傘を持ってから来るのであれば、ここへ来るには相当な時間がかかる。

返信がないことから、まだ勉強をしている可能性もあった。

この空気から抜け出したい思いがあったが、繋いでしまった手をわざわざ振りほどいて店内へ逃げるのは躊躇われた。


「あの、さ」


柳平が口を開く。
今の彼からどんな言葉が発せられるのか、いつも以上に予想できなかった。奇妙な緊張感を抱きながら促す。


「なん、ですか?」


またキスがどうのと言い出した場合は、迷わず手を振りほどくことを決めた。他にもいくつかシミュレーションをしてみる。しかし、柳平の口から出たのは、そのどの予想からも大きく外れたものだった。


「オレと君が出会った日のこと、覚えてる?」

「はい?」

「こんな感じの雨の日だったんだよ」

「いや、覚えてませんけど」


寿が柳平という男の存在を知ったのは大学1年の春。大学内で大勢の女子を侍らせている姿を見た。

その日がどのような天気だったかは覚えていないが、このときのことを言っているのではないらしい。
そうであれば寿に覚えはなかった。


「だけどね、1ヶ月ちょっと前の大雨の日、オレ達は出会っていたんだよ。しっかり会話もしてたんだけど…どう?」

「どう、と言われましても」


寿の中で出会った、と言われるほどはっきりした『出会い』は先月の公開告白の記憶しかない。それまでは会話をしたことはなかった。


「人違いじゃないんですか?」


中の中である顔の自分と似たような人は大勢いる。誰かと間違えられても無理のないことだ。

柳平は空を見上げ、過去を思い出すようにゆっくりと目を閉じた。
静かに語り始める。


「いいや、あれは間違いなく君だったよ――………」






























柳平が大雨を苦手とし始めたのは、数年前の冬に母を亡くしてからだ。
当時のことを彷彿させる激しい雨の降る日は、自宅を離れて適当な女の家を転々とするようになった。

自分の容姿の持つ力を最大限に活かし、自宅以外の何処かで過ごす。女好きと噂されるようになったのもこの頃だった。


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あきゅろす。
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