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突然!?
3

「か、母さん…、柳平先輩が、おれの――何だって?」

聞き間違いでなければ。
実母の口からは聞きたくないようなことを言われた気がした。

できたら聞き間違いであってくれ。
寿は祈るように母の言葉を待つ。

だが母は決定的な一撃を与えてくれた。


「旦那様でしょう? 違ったの?」


当たり前な事実の真偽を問われたかのように、きょとんとした表情で聞き返される。

「違「いいえっ! 全くもってその通りですよ!!」…何勝手なこと言ってんだコラ!」

かぶりを振って強く否定しようとしたが、柳平に遮られた。

「オレ達は将来を誓い合った仲ですから!」

「誓ってないってば! 捏造するな!!」

「あらー、やっぱりそうなんじゃない。こんなに美人な旦那様をもらって、たもっちゃんも幸せねぇ」

「だから旦那じゃないから! 信じるなよ!!」

「いえいえ、喜んで頂いて光栄です! 息子さんは必ず幸せにしますよ!!」

「調子に乗るなって!!」

似たようなノリの人間が2人いる。
どちらも人の話を聞こうとしない。
いつもの倍は疲れる。

頭を抱えながら、皿を台所から運んだ。

「大丈夫か? 顔が青いぞ」

階段から下りて来た浅日が、心配するように顔を覗き込んだ。

「あぁ、うん。大丈夫…たぶん」

ちらり、と楽しげに談笑する柳平と母を見遣る。
それで何かを察したのだろう。気遣わしげに寿の頭を優しく撫でた。

「…そうか、無理はするなよ」

「ああ、ありがとな。――そうだ、朝飯ってもう食って来たか? 4人分あるから、タクも食べて行けって意味だと思うんだけど」

「そうなのか?」

寿の持つ皿と台所に置かれている皿とを交互に見る。
浅日に気付いた母がこちらへ近付いた。

「そうよ、良かったら食べて行って。でももう食べて来ちゃったかしら? こんな時間だものね。ごめんなさい、うちの息子ったら可愛いくらいお寝坊さんなの」

「可愛いくらいってどういう意味。おれが寝坊したせいだってのは認めるけど、そんな言い方されると反省する気が失せるよ」

「あらやだ、たもっちゃんたら反抗期ね」

「未だに? 今年で20になりますけど!?」

「そんなの関係ないわよー」

「いや、あるって!!」

母親からしてみると、自分の子どもはいくつになっても子どもなのである。



「…疲れた。早く食べちゃおうよ」

朝は洋食派だ。
食パンを焼き、4人分の食事を並べる。
席へ着くと、全員手を合わせた。

「「「「いただきます」」」」

行儀の良い人間ばかりだった。

柳平はいつかの昼休みのように、寿に食べさせようとしたが、丁重に断られる。


「そう言えばあっきー君、今日は何処かへ行くつもりなの?」

パンを一口かじり、思い出したように尋ねる母。

わざわざ人の家を訪ねて3時間も待っていたのだ。人の寝顔を見に来たのが目的だったということでもなければ、何らかの理由があるはずだ。

牛乳を口に含み、視線を向ける。

「今日は寿君をデートにお誘いしようかと思いましてっ!」

「デートぉぉっ!?」

予想外の言葉に、寿は大声を上げた。
幸いにも、牛乳は飲み込んだ後だった。

「デート? デートって何!? おれと柳平先輩が!? するの? デートを!? デートっていうのは恋愛関係にある男女がするものなんじゃないんですか!?」

「恋愛関係なら男同士でもするよー」

「そもそもおれ達は恋愛関係にありません!」

「えっ!? 将来を誓い合ったでしょ!」

「はいっ!?」

本気で驚いている柳平に驚く寿。

「だから誓ってないですって! 今日はずっとそれを言ってますけど、おれと貴方で一体いつ、将来がどうのこうのって話をしたって言うんですか!!」

「ホラ、激しい雨の降る日だよ! 『これからも、ずっと一緒にいましょうね』って言ってくれたじゃない!! あれは夢なの?」

「ほぼ間違いなく夢です!」

「『愛してます、慧秋さん』って言って、ちゅーしてくれたのも夢!?」

「確実に夢だ!!」

現実だと信じていたかったのに…、と額に手を添える柳平。

一応、辛うじて妄想と現実の区別はついていたらしい。


1人で落ち込んでいる柳平を無視し、さっさと食事を済ませる3人。

「「「ごちそうさまでした」」」

食事開始時より1人減った、終了の挨拶だった。


母は皿を持ち上げ、片付けようとする。
しかし浅日が手を伸ばして来たので、動きが止まった。

「食べさせてもらったんです、俺が洗いますよ」

「あら本当? じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」

「どうぞ。寿のも寄越せよ、ついでにやってやる」

「マジでか、ありがと」

「まぁ、お前のはついでだけどな」

「そこは『お前のためだ』って言えよ! 一応!! 何となく寂しいだろ!!」

「気にすんな」

勝ち誇ったように笑み、寿の食器も取り上げる。対する寿は不機嫌そうに口を尖らせた。

言葉通り『ついで』に寿の分も引き受けたのでもないのだが、何でもないように見せるのが、長年の間に築き上げた浅日のスタイルだった。
朝食も、実は家を出る前――寿に電話をかける前――に済ませていたのだが、折角作ってくれたのだから、と先ほど出された料理は完食している。

見えないところで義理堅い男だった。



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あきゅろす。
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