突然!?
1
待ちに待った土曜日。
父は休日出勤、弟は塾。家には寿と母の2人しかいない。バイトも丸1日休みなので、ゆっくり過ごすつもりで昨晩は夜更かしをした。
時計は既に10時を指しているのだが、寿は未だ布団の中だった。
枕元の携帯電話が鳴り出す。
その音で目を覚まし、寝転がったまま受話した。
「…もしもしー……?」
明らかに寝起きと分かる、不明瞭な口調だった。
電話の向こうで相手が溜息を吐く。
『浅日だ。まだ寝てるのか?』
「うんー…。結構遅くまで起きてたからさぁー……」
『そうか。じゃあ今日は暇か? バイトは休みなんだろ?』
「うんー…、そー……」
ふわぁ、と欠伸をしながら、身体を起こした。
現在時刻を確認しようと寝ぼけ眼を擦る。
はっきりした目には、とんでもないものが映った。
「ぅ、ぇぇえええええーーーーーっ!!?」
『…五月蠅ぇ』
眠気も一瞬で吹っ飛ぶ、恐ろしいものだった。
『お宅訪問は突然!?』
寿は目を閉じ、昨晩からの自分の行動を振り返ってみる。
「えーと、確か昨日は、3ヶ月借りっ放しにしてた漫画を一気読みして、目が覚めちゃったからゲームもして。あとちょっとでクリアってとこまで漕ぎ着けたんだけど、眠くなったから中断して。で、時計を見たら午前3時丁度だったんだ。寒かったから窓は鍵をかけたままにしていたはず。うん、何もおかしいところはない。不審者が上がり込む隙なんてなかったはずだ、うん」
『…不審者?』
「オレの何処が不審者だって言うのっ!?」
「だからこれは幻覚、幻覚なんだ。もしくはまだ夢を見てるだけなんだ。そうに違いない。でなければ、全くの赤の他人がおれの部屋にいる訳ないからな、うん」
『赤の他人…』
「他人じゃないでしょ? 将来を誓い合った仲じゃない!」
「…あー、もう良いや。寝よ。そしたらきっと悪夢が覚めるんだ」
『いや、おい、寝るなよ』
「寝ないで!? まだ寝ないで!! 寿君が起きるのを3時間も正座して待ってたんだよ! ていうか悪夢扱いは酷過ぎるよーっ!!」
『「黙れ変態」』
「愛が痛いっ!」
携帯電話を綺麗な顔面に投げ付けた。
電話越しの浅日にも声を拾えたのだろう。
寿と見事なシンクロをし、同時に2人は吐き捨てる。
ベッド脇にあったのは、そこにいるはずのない人物――柳平の姿だった。
「夢だと思い込みたかったのに…。何で人の部屋に勝手に上がり込んでるんですか。不法侵入ですか。ていうか3時間も待ってたってどういうことだ? 起こせよ!」
「いやー、寿君が気持ち良さそうにすやすや眠ってたから起こせなくってー」
「いや、そこは起こしましょうよ! いっそ叩き起こされた方が幾分マシですよ。まさかとは思いますけど…ずっと見てたんですか?」
「うん? 何を?」
「おれの寝顔」
「そりゃもうバッチリと!」
「変態!!」
枕を投げ付けた。
ボスッ、と軽い音を立て、簡単に受け止められてしまう。
「寝顔を見てたくらいで変態扱いはナイよー。手は出してないしさー」
と、不満顔で口答えをされ、ギロリと睨んだ。
「眠っている間に、他人にじろじろ見られるなんて、気分良い訳ないじゃないですか」
どんな寝相をしているか、寝言やいびきはないか。
眠っている自分には分からないのだ。
そんなことを気にしていると言ってしまったら、自分が柳平を意識しているように聞こえそうだったので、敢えて言わなかったが。
「それにオレ、ただ黙って見てただけじゃないんだよ?」
「…どういうことですか?」
「黙って寿君見ながら、聞いてた」
「き、聞いてた…?」
家族から寝言が酷い、としばしば言われていたのだが、まさか…と、寿の顔は青くなる。
「泣いたけど、黙って聞いてた」
柳平の両目が潤んだ。
「…はい?」
「寿君、寝言でオレのこと喋ってたけど、泣き声は上げなかったよ! 頑張った!!」
「おれ…何を言ってました?」
「それをオレに言わせるの!? 寿君の鬼畜!!」
唇をぎゅっと噛み締め、涙が零れ落ちるのを堪えている。
一体、何を言ったのだ。
さすがに気になった。
しかし、それを聞いていた本人が口を割ろうとしないため、寿に知る術はない。
柳平は俯いていたが、しばらくして何かを思い立ったようで、ぽん、と両の手を叩いた。
「そうだ! オレがここで眠って見せたら良いんじゃない!? そしたら寿君にもオレが寝顔を見続けてた気持ちが分かるはず!!」
「何故そういう結論に至った!?」
柳平は立ち直りが早かった。
「好きな子の寝顔ってずっと見てたいものでしょ? だから、オレの寝顔を見たら寿君にも、どうして起こせなかったか分かるよ、絶対!」
「まず前提が間違ってる! どうしておれの好きな子が貴方になってるんですか!!」
「じゃっ、ちょっとお邪魔しまーす」
「話を聞け!!」
先ほど投げ付けられた枕を置き、ベッドに侵入する。
寿は足で押し返そうとしてみたが、意味がなかった。順調に近付いて来る。
あっという間にベッドの半分を占拠された。
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