20100801デジモン記念日。
私。サメラ。
最近、匹野さんの様子がおかしい。いや、ほんのちょっとよく見ているとわかるんだけど、ちょっとボーっとしているような、気がして、僕は声をかけた。
「サメラちゃん。」
「え?なに?」
「最近、様子がおかしいよ?」
「まぁ、ちょっと。ね、今日は何日でしたっけ?」
「七月三十日だけど。」
「…そう、ありがとう」
ぱたぱたとどこかに走ってしまって、もう声をかけることはできなくなった。パタモンがいつもの場所に止まってにっこり笑う。
「ねぇ、タケル。あっちに大きな石があったよ、みんなあっちで休憩だって」
「わかったよ、ヒカリちゃん、みんなのところに行こうか」
不思議そうな顔をしたタケルはパタモンの指示通りに動くのであった。
また一年が来る。
新しいクラスになるときめきがない。あの暑かった夏が恋しい。楽しかった運動会もない。あの寒くて楽しい冬に出会いたい。
秋の遠足は近くの動物園だったのにどうして、私は10年もこの世界にいるのだろうか。
髪の毛の間から垂れる茶色の耳を力なく揺らしてサメラはため息をついた。
「あぁ、そうだ。そろそろ参りに行こうか」
毎日の日課に近いそれは、みんなのお墓参りだ。
湖の近くの風通しのいい場所に作り上げたそれを毎日見て毎日数えている自分が女々しい、勿論移動できるように普通の木を加工したものだが、意外と便利だ。
「骨もなくっちゃ、墓の意味はないんだけどね」
みんな異次元の向こうかもしれないし、もしかして私一人とりのこされていただけとか…ないか。冷静に考えながらも、歩く足は風通しのいい場所の墓に到着した。
「あ、サメラちゃん。」
「…あ。どうして、ここにいるの?」
「大輔がみつけたんだぎゃあ!」
はぁ、そうか。と言ってため息をついた。どうかしたのか?なんて、声が掛かってサメラは迷わず墓を指さした。
「私たちの代のみんなのお墓。手、合して上げってって」
線香もろうそくもないけどね。けらけら笑って、サメラはポケットの液体を墓の前に置いた。
「サメラさん、それ。前にあげたペットボトル」
「使い方をよく知らなかったから供え物としてね。」
無いよりマシだしね、ありがとうね。なんていまさらながらの礼を言ってにっこり。
「サメラさん。」
「?伊織くん」
「サメラさんは辛くはないのですか?」
「辛いけど、言っても現状は変わらないし、ね、どうしようもないよ」
現実世界に出ても、解らないことだらけだしどうしようもないから、私はここで、間違った世界から帰る。いつか帰れることができたらいいな。なんて思って動いてる。いつか、このデジタルワールドが平和になったらね。
私はきっと帰れるわ。
曖昧にわらう私はどんな顔をしてるかな。
まだ、大変な毎日だけども、それなりに毎日は楽しいよ。
20100801
デジモン記念日。
(ね、サメラちゃん。現実世界に来ない?)
(外に出るのが怖い。ほら、みんなアレでしょう?外に出ると退化しちゃうじゃない、そこも怖いね。幼稚園生とか嫌だし。でも、今日はみんなに紹介できてよかった!)
(でも…)
(こういうのも、何かの縁だよ。死んだらこの中に入れてね)
(サメラさん!)
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