[携帯モード] [URL送信]
1/1
遠くで鳥の声を聞いて、集中力が途切れてハッとした。泡立てていた容器を片手に眼前に広がる机の上の惨状に意識が向いて、サメラは目を覆いたくなった。作りたいものがあったから、と考えてたらついついあれやこれやと作ってしまい、そして最終的に机を埋めてしまうほどの料理や製菓の数々。キャラバンにいた頃、料理人は味音痴だったので、サメラが料理をしたりしていたので、セシルたちと旅をし始めた頃からサメラが料理や細々した雑務をしていた。決して料理が壊滅的なメンバーだったから。とかではない。決して。そう決してだ。
そんなこんなの人生が影響を及ぼしてか、今でもたまに沢山作ってしまうのが、集団生活の癖とも言えるのかもしれない。だけども今はサメラとカインの二人で暮らしている。二人で食べるには多すぎる。
さて、これをどうやって処理しよう。とサメラは頭を抱えながら、机の上の料理を見るのであった。

バレンタイン突発。
パターン、シグナル。

「また、えらく気合いの入った…」
それが帰宅直後の伴侶カインの言葉であった。
二人でテーブルの前に並んで、サメラは視線をそらした。
その言葉に確かに自覚はあった。だからこそ、サメラはあのとき机の上の料理や製菓を見て後悔もしたのだった。

作っていたら楽しくなって…。いや、だってお前もほら。ほどほどの甘さなら旨いと言いながら食べるし…料理もよく美味しそうに食べてるし…お前の美味しそうに食べてるのが…。

言葉尻が消えていくのを珍しいと思いながら、カインは隣のサメラを見ると、顔を真っ赤にしながら言葉を選び、俯いて両手で顔を隠してる姿があった。そっと覗きこむようにしてみると、こっち見んな!と叫び腹を力なく叩いた。どうやら彼女は感情の処理をしきれない様子らしく、そんな姿をカインは満足げに笑いながらサメラの攻撃を受け入れるのであった。

「なぁ、ストップかけてたら痛まないだろ」
「お前…知性5のわりに頭いいよな」
「いつの話だサメラ!!」




仕事を早い目に終わらせて夜餡の支度をしているとカインが早い時間に帰ってきた。なにか言いたげだったのだが、問えばなんでもない。と言われたので、そのまま気にしないことにする。珍しく早く帰ってきたのはいいのだが、支度も終わってないのでカインを風呂に追い出して夜ご飯の支度を急いで進める。
風呂上がりになるぐらいに夜餡の準備が出来上がり、二人で食卓を囲む。
色々話をしながら、飯を食べている間にカインが少し浮き足立っているように感じて、小さく小首を傾げた。なにがあったんだ?と思い返せど、なにもない。心当たりもないので放っておこう。と一人決めるのであった。

パターン2。オールブラウン。

食事の片付けをやっておくから風呂いってこい。と促されたので、任せてタオルを首に巻き付けて風呂から戻ると、一通り片付けたカインがソファーでくつろいでいた。サメラ一人分のスペースをあけてくれたので、サメラも遠慮せず促された場所、カインの隣に腰を下ろす。

「また乾かしてないのか?」
「面倒。」
「そういうところセシルとは似ないよな」
「居住環境の違う双子に似てる要素を求めるな」

タオル貸せ。と巻いてたのを取られて、無理やり足の上に乗れと促され、そのまま強い力で髪の毛の水分をとられていく。力が強すぎるのでそれに釣られて頭も揺れる。バサバサとタオルが揺れる合間を縫うように声が聞こえる。

「なぁ。」
「ん。」
「…今日が何の日か知ってるか?」

あぁ今日ローザから聞いて買いにいった。そこの氷室のなかに入ってるから勝手に食え。
指差した先に赤いパッケージのそれが置かれていて、カインは肩を落としながらもっと情緒をだな。と言うが、相手の手に渡ればいい。と考える合理性の塊であるサメラに訴えるだけ効果が期待できないものだ。

「お返しは三倍返しで待ってるからな。」
「ローザからか…」
「あぁ。」

ちゃっかりしてる。とカインは呆れて肩を落とすのであった。


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!