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「自分で考えろ、阿呆!」
私。サメラ。


バロン左の塔、上から二番目のフロアの一番奥の通路の奥の部屋で、バロン最強の一二を争う夫妻は、そろった休日を存分に消費していた。嫁の手には優しい読み書き、夫の手には難しい哲学書、それぞれ思い思いの事をしている最中、嫁が聞いた。

「カイン。」
「どうした?サメラ」
「いや、聞きたかった事があるんだ。」

優しい読み書きをパタリとサイドテーブルに叩きつけて、真剣な面もちのサメラと突拍子もなく驚くカインに言い切る。

「カインの誕生日はいつだ?」
「俺のか?」
「そうお前のだ」
「俺は…あ…」

はたり、とカインが何かしら気づいた様で、動きが止まった。ようやく思い出したらしく、動きが止まった。

「…昨日…」
「正解。ローザから聞いた。どうして、黙ってたんだコノヤロー」
「どうして、ってお前怒ってるんだ?」
「お前が思い出さないからだろコノヤロー!」

コチトラ一週間前から準備したりカレンダーに花丸入れたりしてたんだぞ!こんのボケ!おかげで腐ったんだぞ!
右手にラッピングされた袋を高く掲げて痛んだと思われる中身は薄ら緑だ。

「……お前ってやつはァァアアア!」
「どうしてそんなに怒ってるんだサメラ。」
「自分で考えろ、阿呆!」

セシルの所に言ってくる。と叩きつけて、サメラは家から飛び出した。
文字通り飛び出した。窓から飛び出した。きっとしなやかな筋肉を使って、左の棟を一階分を登っていった。鈍い扉の音も聞こえたので、どうやら中には入れたらしい。それだけ聞こえて、カインは少し胸をなで下ろした。




「ローザァァアアア!」
「サメラ、近いから叫ばないで頂戴。」

ガラス窓は幸い空いていたので、そこに飛び込む。音を聞きつけて、片割れとその嫁、そしてその息子が顔を覗かせた。

「サメラ、こんな時間にどうしたの?」
「……家出だ。」

家出って、ワンフロア下じゃないか。と片割れが、苦笑いを浮かべた。

「…………カインの阿呆に愛想を尽かした。」
「カインと何かあったの?」
「カインが…」

…自分の誕生日を忘れていたんだ。この間ローザから聞いて、自分なりに表現して本人にも分かり易くカレンダーも大きくマークを入れていたのに。
「一回の誕生日じゃない。何十年も寄り添うのだから、いいじゃないんですか」と言うセオドアの言葉に、サメラは眉を寄せた。

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あきゅろす。
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