彼女がつけたマラコーダの名前は、ノーチラスと言うらしい。 へいへいゴルベーザさん、見ます、見ます、見ますよー。投げやりな返事をして、マラコーダは牢の前に居場所を陣取る。 視界を投げつけながら、ゴルベーザを見送れば、青の鎧を纏う男が一人後を追いかけて行った…見覚えはあるが、誰だったか。マラコーダには解らない。 「行ってらっしゃーい」 へらへら手を振って、彼らが居なくなるのを見た。後ろの女は、ゴルベーザが居なくなった刹那、ホーリーをぶっ放した。白の光が矢になって一点集中攻撃を放ちだした。 「おい!!」 ザウンザウン! 聞き慣れない音と共に砂埃が舞う。バブイルの塔が崩れるかもな、なんて思考がよぎるが、ホーリーを放とうとバブイルの塔は沈黙を保っていた。だがしかし。 「あら。効かないのねホーリー!」 「あら。効かないのね。じゃない。時が来たら鎖で繋ぐぞ、それから脱走なんて試みないほうが身のためだ。」 この部屋の鍵は四天王にしか開けられない、ということはだ。私には開けられない。ということだ。と言い聞かせれば、白の女がクスクス笑い出した。人が怒っているのに、この女は…! 「…ぷ…なんだかサメラみたい。」 「サメラの知り合いか。」 「サメラを知ってるの?」 まぁな。こんな奴だっただろう。なんて言い切って姿を変える。マラコーダの得意といえる技の一つだ。 ソイツの姿で、ソイツの声で、マラコーダがソイツに成り代わる。 「ほんと、サメラだわ。」 「な、と言うかこれしか出来ないんだがな。」 困ったように笑うマラコーダは、どっかりそこに座り込んで、やっと自己紹介が始まる。 「私、ローザ。あなたは」 「…あー。ない、」 そこまで呼ばれないからな、と付け足してマラコーダは目線を落とす。 「ノーチラス。セシル達は無事なの?」 「さぁな、ただいつかお前たちと戦わなければならない。」 それだけだ、と言い切ってマラコーダはため息をついた。彼女がつけたマラコーダに名前は、ノーチラスと言うらしい。どうでもいいが。 「短い間だが、よろしくな。」 ニヤリと笑ってマラコーダは眠るように瞳を閉じた。ローザが何か言っているようだが、シュトラールが面出ないことを祈りながら、マラコーダは聞く気もなく眠りの世界の扉を開けた。 ゴウゴウとけたたましく鳴る機械音を聞きながら、マラコーダの耳にため息が聞こえたような気がした。 [*前へ] |