皮肉な運命な事だ。 そんな台詞を言わず終いにして、険しい目つきが前を射抜く、その目に冷たさを残して。 「異常はない、気にしないでくださいな」 確かに、闘った時に傷は負った。だが、記憶を力にして体調は一番良い状況を保つようになっているから、嘘はついていない。 「ほんとうに?」 「あぁ、嘘はついてないよ」 「嘘は、って言うんだから、何か隠してるの?」 「それもないよ、リディア嬢。」 その詮索具合がサメラみたいだな、と思いつつシュトラールは目を細めた。 幼い頃のサメラを、団長という個人が産まれる前からマラコーダを通じて、見ていた。何も言わない彼女を、会えない弟に陰を重ねて見ていた。違うと解っていても、重ねていた。 カインなら、ああしたのに。なんて思う時もあった。でも、それが出来なかった。 会って謝りたいのは、シュトラール・ハイウインドの言い分だが、団長は愛娘みたいなサメラを救いにマラコーダは…どうなんだか解らないが、目的と利害が一致したから、行動しているようなものだ。 「いつか、謝れたらいいな。」 「なにに?」 「自分自身に。」 前を射抜く瞳は、いつの間にか前方にいるゴルベーザを見つめた。黒衣が、歩くリズムで左右に揺れている。 「……………」 自分が、新たな命と人格を得て生き返ったのが、数奇な運命だったのかもしれない私の人生が、色鮮やかに、世界を変えていくのかと、思うと不思議で仕方ない。 この世界のサメラが、私のかわりに幸せを掴んでくれることを、祈りながら、歩は進む。 「あなたはどうしたいですかマラコーダ」 問いかけても沈黙を保つ獣に苛立って、団長に同じ事を聞いてみた。団長は、ぽつりと何かを答えたのだが、何かが聞き取れないまま会話を切り上げた。 「……個の消滅も、消費できる記憶も少なくなってきたのですね。」 残りは、僅かか。困ったものねと小さく呟いても、誰かの耳に届かず、声音は砂礫に沈んでいく。この星の下奥深くは知らない。だから、こそ、残りが審判で仕方ない。 薄い土色が、延々続くこの道に、少し熱気が紛れ込み始めたのは、誰も知らない事実。 「そして、秩序になる。」 皮肉な運命な事だ。やれやれと言わんばかりのため息をついてシュトラールは頭を抱えるのである。 [*前へ][次へ#] |