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竜の背で踊る。

先の大戦からすこし間が開いた頃。
サメラと共に旅をしたカインは、ダムシアンに寄り、吟遊詩人ギルバートと仲間に迎え、ファブールの国境境まで来ていた。
死んだ知合の弔いを済ませないまま旅に出てしまったので今、こうして鎮魂歌と舞を奉納するために、この地まで赴いたのであった。
サメラは着替えるからと近くの森に姿を消して取り残された男二人は、ポツポツと会話を紡いだ。

「ファブール近くなのに森が多いんだな。」
「川も近くて、もうすぐ夏だから竜の背が見れるよ。」
「竜の背?」

聞き慣れない単語が聞こえカインが聞いた。馴染みないよね。と言ったギルバートがある方向を指差した。砂がたまり、大きな中洲が出来た川だった。

あちらこちらに曲がる川でね。夏には水量が増えて中洲はある程度沈みその様子が竜の背に見えるんだ。多分、サメラはあの中洲で踊るんじゃないかな?

予想だけどね。と笑ってそっちに歩いていくからカインもそちらについて行った。川縁で腰を下ろしてギルバートのリュートの調べを聞いていたらサメラがようやくやって来た。
おろしたての様なまっさらな丈の長い白の肌着姿で。

「待たせたな」
「おい。」
「久々にこんな事するし、大丈夫かな?」
「やることに意義があるからな。問題ない。」
「おい」
「サメラって、なんでも出来るんだね」
「まぁな。」

白の布を手に持ったサメラが最後の装飾品を身につけた。

「おい、」
「メインはギルバートのリュートで。踊りは、昇華と成仏を願うオマケみたいなもんだ。格好は急拵えだから気にするな。」

どうせ鎖国状態に近いバロンに、ギルバートみたいな腕のいい吟遊詩人も居なかっただろ。暇なら見とけ。
悪態をつくように言い捨てて、ギルバートに声をかければ、大丈夫だと返事が返ってきた。

「じゃあ、始めるか。川縁でも背中だし、問題ないないだろ。ギルバート。タイミングは任せた。」
「うん。解ったよ。」

咳払いをしてから、ギルバートはリュートをならし、囀る。それにあわせてサメラ手首についた鈴が鳴る。久々に丈の長い肌着着たせいか裁き方が心許ない気がするが、飛び跳ねることもない。思うのは、魂がゆっくりあがっていく様子。それを思い浮かべ白い布をはためかす。
生きてるように布が踊り、空に登る鳥様にもカインには見えた。

竜の背で踊る。


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