身から出た錆。
訓練の移動中に、セオドアはつい最近覚えた後ろ姿だった。自分の上司カインの家にやってきた子だ、と自分の年に似た子を珍しさを覚えたセオドアはそちらに歩を向けた。
「ガウェイン。だっけ。」
「なんでも呼んで構わないぜ。ガウェインでも、レニングラードでも、なんでもな。」
なんでも呼べよ。なんでも振り向くからさ。そう屈託もなく放つガウェインに、セオドアは首を傾げた。
「君に名前はないの?」
「もうちょっと大きくなったらな。ルド…サメラがくれるんだってさ。」
今はヨーミョーで、まともな名前を持たないんだぜ。だから、なんでも呼べば返事するし、そんなのがこの国にねーから、今は大体サメラとカインがガウェイン。って呼んでるから、フキューしたんだけどな。先にマナをつけるから山の神に食われちゃうんだぜ。気をつけろよな、足からガブリってな!
オーバーアクションな身振り手降りを交えて放つガウェインは押され気味に反論を振りかざした。
「バロンはバロンですからっ」
「はっはー、足震えてっぜ。王子様っ」
冷やかして、ケラケラ笑うガウェインと、足が震えたセオドアのやりとりは、昔のミシディアの双子を彷彿させる。
「こら、ガウェイン。なに道草くってんだ。真っ直ぐ次の勉強部屋に迎えって言っただろうがっ。」
「げぇ、ルドルフだっ。逃げっぞ、セオドア。」
サメラの怒声が廊下に響くのを聞いたガウェインは、ガシッとセオドアの腕をつかんでバロン内を走る。
「な、セオドア。バロンを案内してくれよ、周りはみーんな大人ばっかでさ、つまんねーんだよな。」
みんな難しい顔してさ、知ってるかカインなんて、こーんな顔してんだぜ。とムリクリ目をつり上げて、口を尖らせて、文句を放つ。
「そうか、おれはそんな顔をしているか。」
「げっ、カイン!」
逃げるぞと、走りだそうとした刹那カインはガウェインの首根を掴み動きを征した。離せよ!と暴れども所詮は子ども。大人に勝てる理由がない。
「お前が勉強中に逃げたって聞いてな。お前といいサメラといい逃げ癖強いよな。」「誰が逃げ癖だ?自分自身を受け入れなかったお前が、私に何を言う権利があるっ。」
「サメラ、こここれはだなっ」
「問答無用、リフレク。コメットォ」
身から出た錆。
(ね、サメラ。いつも言ってるよね)(アシガ、アシガ…)
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