ありがとう。リディア 「リディア?」 確か、前を歩いていたはずなのに。殿を勤めていたが、俯いて前を見ると殿から二番目のリディアを見失った。一本道だったのにな。首を傾げてサメラは足を止めた。 「サメラ」 「うわぁっ!」 かなりの声量で叫びあげて、自分で上げた声にも驚き、手に持っていた鞄やらが一気に落ちた。 「そんなに声出すこと無いじゃない。」 「こればかりは性分でな。」 見えて理解してたらいいんだが、見えない…背後とかから、声と衝撃は怖くて仕方ない。昔から。あの人が…そうだったから。と言葉を濁していく中で、それにはリディアも触れず、そうなんだと答えて、落ちた荷物を拾う。 「戦闘の時は、だいたいが見える場所から来るからいいが、慣れん」 雷とかも苦手だな。と言えばサメラにも苦手なものあるんだね。とリディアも苦笑を浮かべるばかりだ。 「そういえば、リディアはプリン体の魔物が苦手だったな」 「む、昔の話じゃない!サメラ!」 「今も苦手か?」 「そんなことないけど。」 「良かったな、昔と比べ成長したんだな。」 「プリン体は呼び出せるようになったから、かな。」 それも一つの契機だったんだな。良かったじゃないか、苦手が治って。リディアのプリン体よりも治らない、これは一生治らない傷だ。 「背中の大きな傷がその、キッカケ?」 「そうだ」 リディア、お前は知ってるだろう。小さな頃の恐怖…トラウマは一生かけて治るのか治らないのか、と言う事実を。 よっこらせ、と荷物を担ぎ直してサメラはチラリとリディアを見た。 「治るのにも、時間がかかる。」 リディアはよくやったよ。とだけ言って、サメラはポンと、頭の上に手を置いた。 「あのまま動かなかったら、私が赤い牙でも放とうと思っていたが、リディアの怖い種がなくなって、本当によかったよ」 じゃなかったら、今は、バブイルの塔で骸になっているだろう。と言うサメラの目測は正しい。 氷を、冷気を使う魔物ばかりで、対抗出来るのは、炎だけで。炎を纏う剣や鎧があっても、直ぐに負け戦になるのは歴然で。 「黒魔法は創造力が左右する。」 トラウマの炎でも大丈夫だが、そのトラウマで身を滅ぼす可能性もある。勇気は、エドワードの怒りのような、人間らしさから来るものだ。 「とにかく、リディアの創造力が今までを助けた」 ありがとう。 [*前へ][次へ#] |