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祈らない希望があると思うな。

「サメラ兵長。」

遅かったじゃないですか、どこでって陛下のところですね。と、サメラの隣の青年が笑う。

「補佐官。」
「癖です。すいません」

お前、いつかそれで身を締めるぞ。と念を押すと、相手はすんなり黙った。ベオグラード・コーカサス、階級正補佐、黒髪に茶の目の爽やかな青年は、いつもこうだ、ヘラリと笑って、上手いこと交わしていくし、それなりに下も慕っているのも解る。だが、彼の言葉に数々の毒が含まれている気がする。

「今日の予定は、」
「朝から訓練、昼は軍議の資料作成、夕方から軍議、夜は、ハーヴィ陛下の身辺警護だ」

因みに夜は今つけた。カインが居ないのだ、家で施錠し夜を明かすだけなら仕事をしていたほうが気が楽だ。

「体壊さないでくださいね。」
「はいはい」

コーカサスが隣に位置付いて同じペースで歩く。隊務室まであと数十歩という所で地鳴りが轟いて揺れる。

「何が起きた?」
「分かりません。」
「そんなにあっさり言うな!ちょっと上から見てくる」

なんてサッとまでから飛び出そうと枠を掴んで前を見て理解して脳内で反芻して呟く。

「燃えてる…」

北の空が赤い。睨みつけるように見つめて、背中が勢いよく冷えていくのがよく理解できた。とても他人ごとじゃないのに、他人ごとのように考えてしまう。

「…隊長?」
「…指示を受けると共に、遠出の支度を示唆。」
「はい。」

手短に命令を下してサメラは今来た道を急いで走る。頭が理解しても心が拒否を示す。あの月の件、以来魔物だって減った。飛空挺が落ちるはずがない、落ちる要素なんてほとんどないんだ。
赤き翼はバロンの頂点に立つ一師団。魔物の襲撃があれど負ける要素なんて。
走っていた足が、だんだんと重みを増して動きが鈍る。
いや、考えてみろ、脆弱な人間だ、かならずいつも勝つなんて保証はない。だが、あの方向はカインが行った方向だ。嫌な考えが脳裏を支配して気分が悪くなってきた。廊下の向こうから片割れが慌ててやって来た。

「セシル!」
「サメラ、落ち着いて聞いて」


赤き翼が墜落した。


祈らない希望があると思うな。
(ど、しよう…せ、しる)(サメラ)(あの船には、あの船に、カインが、カインが!)(落ち着いてくれ)(頼む、嘘だと言え!)(落ち着いて。サメラ)(あの船にはセオドアだって乗っていたんだ!誰か嘘と言え!)

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