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狼達の群れに子羊どころか獅子を放り込んだ

春も近い軍事国バロンの左の塔。
上から国王の住まい、上級兵士の官舎(因みに、こちらが以前暗黒騎士セシルが住んでいた階であり、ゾットの塔から使ったテレポの行き着いた先であるが今はいい。)、家庭を持つ者の広めの隊舎、下積み兵士達の不衛生な小部屋の雑多群、そして会議室やら隊舎やら広いスペース。そして地下の厨房やらシャワールームやら。そんな左の塔の上から三つ目、家族持ちが住む階の一番奥に進むため、石畳の廊下をカツカツ鳴らす、目的のドアにたどり着いて、木彫りのドアを確認することなく、そこに身を滑らせる。

「サメラ?」
「あ、起こしたか?カイン」

蝋燭の光に包まれてサメラは目を細めた。少し目の下に隈が浮いてるような感じて、カインは目を細めた。

「今、何時だと思ってるんだ」
「悪い、色々頼まれて片付けてた。」
「色々。って、お前は」

近衛師団団長だろうが。んなもん、下に押し付けろ。とカインが噛みついたので、シュトラールに似てるな、と返すと、ぐうの音も出ないらしい。彼女に追いつこうとしたから故に悪い面も受け継いだらしい。

「いい言葉を教えてやろうか。」
「隊長は兵士の仕事をしない。だったか」

聞き飽きたと言わんばかりに、作り置きの鍋から夜餡を取り出す。夜食にいるか?と空の皿を取り出してサメラは聞いたが、俺は食べた。と切り替えされたので、「私は、この間まで軍属でもなかったんだ。」このぐらいまでして同じ場所に立てると言うものだ、と刃向かう。

「ほんと、お前は逞しいな。」
「はいはい。」

適当に受け流しながら、サメラは一気に自分の夜餡を胃の中に収めて、カインの手をひらりと交わす。

「シャワー浴びてくる。」
「すぐ帰ってこいよ。」

シャワールームは地下で、サメラは久々の女性隊員で有るが故というか、狼達の群れに子羊どころか獅子を放り込んだようなモノであっても、過ちは犯せないような強さを持っていても、やはり、心配しているのだろう。そう思われると心の隅っこがほんのり暖かくなったような気もするが、言うと恥ずかしいので夜餡の所為にして窓から飛び降りる。

「サメラ。」

窓から飛び降りるな、馬鹿たれ。と漏らしながらカインは寝室のベッドに身を投げた。

「そろそろか。」

小さく呟いた声は石畳に反響しながら消えていった。

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