大人気ない、私。
無意識に走り出して、岩ばかりの山肌を踏みしめないで走る。カチャリカチャリ鳴る甲冑を着てない所為か、体は軽々と頂上を目指してサメラは登っていく。
頂上少し手前の吊り橋まで来て、完全に足を止める。遠くまで見渡せる景色を一通り眺めてから、ため息を一つ。
大人気ないな。
と、呟いて瞳を伏せる。過程が見るべき点なのか、はたまた結果を評価すべきなのか、ではない。
冷静さを装う自分が嫌で嫌で仕方ない。慌てたらいいのに、と毒付いて、またため息を一つ。朝の空を見上げて、吊り橋を渡る。木と靴がぶつかって、コツコツと静かに音が鳴る。
吊り橋の向こう側には祠が一つ。ぽつりと其処にある。以前と同じ様に静かに鎮座している。
「……どうして、魔法が使えないんだろう」
使えたら町だって!人だって!
この手で救えたのに!道具袋の中の白い牙なんて使わなかったら、人を救えたのに。……なんで、どうして、生きてるんだ!
目を閉じれば幼い頃から見てきた町の姿を直ぐに思い出せる。
賑やかな中にある密かな悪意さえも、今となっては懐かしくて。
「どうして私が生きてるんだろう」
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