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一つの月だけが、静寂と共に君臨する。

しばらくぼんやりと窓の外を眺めていると、黒から青のグラデーションに変わった。

「帰ってきた、のか。」

見慣れた湾岸と、静かな世界。
鳴るのは足音だけの、通路。
誰もいないような錯覚に陥る。
ベッドを離れて、そっとタラップを走れば夜。一つの月だけが、静寂と共に君臨する。

「さよなら、にいさん。また、いつか」
「サメラか。」

背後から声がかかって振り返る。その先にいるのは昼を彷彿させる青空が一人。サメラは胸をなで下ろして、視線を重ねた。

「…宴が始まるからお前を呼びに来たんだが、ちょうど目の前を走ってった」
「そうか。」
「双子の魔導士がサメラを探していたぞ。」
「そうか。」

手に持った荷物を背負う。大刀と中身のない荷物袋の重さはいつもより重たい。

「どこに行くんだ。」
「出て行く。」
「兄弟を残してか?」

この手で、血肉を分けた兄弟に刃を向けたんだ。洗い流せないモノばかりを背負うにはセシルは弟であり兄であるセシルは、眩しすぎて見つめれなくて。全てを洗い流したいんだ。自分の罪も、汚れきった手も、全て反省して受け入れて進んで行くために。

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