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この人だけは守りたい。

「カイン。……アレイズっ。」

手を握り締めて、魔法を唱える。この体がどうなろうとも、この人だけは守りたい。頬をなぞるように涙が一つ零れ落ちた。冷たくなりゆく肉体は、一向に暖かくならなく様々な事が脳裏を横切る。

「い、やだ。……カイン。」

赤が輪郭を伝いしたたり落ちる。それもお構いなしに、サメラは目を閉じて祈った。

「サメラ!!」

仲間が呼ぶ声が聞こえてふと前を見上げたら、軌道が反れたファイガが飛んできている。避ける暇も逃げる暇もない。相殺するしか手段はないと思ったが、魔法を一つ思い出した。

「テレポ」

サメラのテレポは自分の移動でなく第三者の移動しか適用しないのを以前に経験している。だからこそ、踏み切ったのだ。…ただ、このテレポが月のどこかで散ってくれたらと、変に祈るのであった。

「サメラ、か?」

呼ぶ声はハスキーな耳心地良い声。

「大丈夫なのか、体に異常は、異変は?。」
「大丈夫だ。大丈夫だから。そんなにいっぺんに聞くな。」
「……た。…た。」

良かった。
安心してか、また涙が落ちた。

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