闇に住まう、闇の刃。刃を殺めたければ刃で殺めよ。 女。サメラ・ルドルフは、夢の世界のくせに窮地におちていた。 「振り向くな。」 振り向いた時点でお前を敵と見做す。首に添えられた鈍く光る刃が、冷たく触れる。静かに響くテノールボイスが、耳に届く、敵意のない不気味な声。 …もともとは敵だが。 「……マラコーダか。」 「振り向くな。」 つぷり、と皮膚が刃物を飲み込んで、ぱたり、首筋を血が滴り落ちる。 「振り向くな。落ち着いて聞け。」 俺はお前の家族、親友に近い人間達を壊した。恨むなら恨めばいい。それは武神事変-Satellit Reacter-の決める事であって俺が決める事でない。殺したいなら、地獄で殺めよ。我は地獄のマラコーダ。闇に住まう、闇の刃。刃を殺めたければ刃で殺めよ。 許せ。とは言わない。敵を討ちたかったら討ちにこい。遠まわしにマラコーダがそう言っている。ただ悔しくて仕方のない時があったが、今はこれも定めと受け入れてしまう。 「マラコーダは、幸せか?」 「雷が近くにあるならな。炎が近くにいるならな。」 「そうか。」 「じゃあ、俺は逝く。」 「既に逝ってる奴が何を言うんだ。」 「確かにな。じゃあな、ルビカンテ達によろしく言っておいてくれ。」 [*前へ][次へ#] |