薄く甘美な毒。
「…あ…」
痛みの中にある柔らかな混濁。浸食、甘い痛みと鈍る思考。
薄く甘美な毒。
体に絡みつく、黒。
左腕の痛みが、吐血しそうな痛みが、和らいだ。
どうでもいい。ただ、戦いたい
目の前の戦場-ikusaba-を見て、静かに獣は本性を曝け出した。
よたり。と姿勢を立て直した。名前だけを呼ばれたが、返事など毛頭にない。僅かな音と共に駆け出した。
「サメラ。」
呼ばれた声にも振り向かず、真っ直ぐルゲイエに走る。残り数歩を跳躍で補い、大刀を抜いて、縦に切り裂いてルゲイエの数歩後ろに着地して、手慣れた風に、刃を終うと、左腕から発せられる黒煙が揺らいだのをカインは見逃さなかった。
「……セシル。」
「どうしたの?カイン。」
「お前いつ、あの女に暗黒を教えたんだ?」
「暗黒?」
小さく首を傾げて、セシルは記憶を辿った。サメラの前で暗黒を使った事は有るが、教えたことはない。暗黒騎士所以の苦痛は、教えるものじゃないと知っている。
か…はっ。かはっ…。
息を吐いて、血を吐いて、サメラはうずくまる。
「サメラ大丈夫?薬は?」
「…大丈夫だ」
「血を吐いといて、そんな事言わないの」
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